日常(第4話)

瀧上ルーシー

小説

1,699文字

〝僕〟が呪う世界

家の親はスマートフォンを買ってくれない。今時小学生でも持っているのに。仕方がないので僕は学校で授業中にライトノベルを読んでいた。中高生の現実逃避に向いた小説のジャンルだ。勉強は塾できちんとしているので、学校ではもっぱら好きな本を読んでいる。ライトノベル以外も読むには読む。京極夏彦とか乙一とか。西尾維新はライトノベルに分類していいと思う。今読んでいるラノベの主人公は理由もなくヒロイン数人に好かれていた。羨ましい。絵柄的にはイケメンだが、何もしないで女にモテるのなら、僕だって女にモテたい。クラスのタイプの女子でオナニーすることもよくあることだった。だけれど彼女達はきっと恋人とセックスしているだろう。そう考えると余計にその子をオカズにしてするオナニーは燃えた。お前が恋人とセックスしているとき、妄想のお前でオナニーして奴がいるかもしれないんだぜ、ってすべての可愛い女子に言ってやりたい。

本を読んでいるだけで昼休みになった。本を片手に一人で席に座って母親が作った弁当を食べた。友達なんていないしいらない。体育の授業で二人組になってと教師に命令されるときだけが苦痛だった。本の中の高校生は、掃除用具入れにヒロインと二人で隠れる。ヒロインの胸が身体に当たり主人公はペニスを勃起させてしまうというシーンだった。僕は女の胸の柔らかさを想像したが、下半身に血が集まると困るのですぐに止めた。のろりのろりと弁当を食べる。教室の前の方がうるさくなっていた。制服のネクタイをだらしなく緩めている生徒達が、お互いの肩を殴り合っていた、ときには助走までつけて。肩にパンチ、肩パンと呼ばれる遊びだった。クラスの九割に根暗だと思われている僕には関係がない遊びだった。あんなことをしないで済むと思うと、ひとりぼっち、略してぼっちの生活も悪くないと思った。背の低い生徒が泣きそうな顔で肩を殴られる。おお、怖い怖い。リア充でいるためには肩を殴られなければいけないのか! それなら僕はリア充でなくていい。ラノベを読んで塾に通って家に帰ったらパソコンで海外の違法サイトでアニメを観ているオタク野郎のままでいい。生の女が欲しくなったら十八歳まで我慢して風俗店にでも行けばいい。

そうして午後の授業が始まる。家から持ってきた本を読み終わってしまって退屈だったので、僕は手を上げて教師に発言してトイレに行かせてもらった。

洋式トイレの便座に座る。制服のズボンのジッパーを下げると僕は自分のペニスを外部に露出させた。少しの間擦っていると、すぐにそれは勃起した。さきほどまで読んでいたライトノベルの軽い濡れ場を想像してペニスを擦った。妄想の中で僕は赤い髪をした巨乳の女の子の身体を好き勝手に弄くり回した。乳首はすぐに尖るし、あそこからは愛液が泉のように湧き上がる。無駄毛が一本も生えていない背中を舐めて、僕は彼女の膣内で射精した。同時に妄想ではない現実世界の僕は、トイレットペーパーに射精した。

ペニスを拭っていると、外が騒がしくなっていた。少しして何名だかわからないが生徒が数人トイレに入ってきた。隣の個室に生徒達は入り、すぐに煙草の臭いが僕の方まで天井の隙間を通って伝わってくる。うんざりした。パンツとズボンを上げると、カモフラージュのためトイレを流して、個室から出た。手を洗ってトイレから出ようとすると煙漂う個室からチクるなよー、と聞こえてきた。きっと僕に言っているのだ。無視して教室に戻る。

本日最後の授業中、やはり真面目に聞く気にはなれなくて、僕はノートにポエムを綴っていた。

 

なんで思い通りにならないのだろう

僕が神様だったら人間一人一人に自由になる世界を与えたい

苦痛なんていらない

快楽だけでいい

気持ちのいいことだけをして天寿を全うしたい

快楽だけの世界なら永遠に生きていたっていい

現実世界は地獄だ

なんて言ったって僕のことを好きになってくれるカラフルな髪色の少女がいないのだから

 

僕はそんな言葉をそこそこ綺麗な字でノートに綴った。

今、僕はどんな表情をしているのだろう。

 

2016年5月19日公開

作品集『日常』第4話 (全12話)

© 2016 瀧上ルーシー

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