私と彼の話

(第1話)

瀧上ルーシー

小説

4,201文字

彼を陰ながら見つめている私。あることが切っ掛けで私は彼の前に姿を現わす。渾身のナンセンス掌編。

いつから彼のことを好きになっていたのか自分でも覚えていません。彼の方はそんなことを意識することはないのでしょうけど、一応幼なじみでしたから幼稚園生の頃から好きだったのかもしれませんし、小学校に上がってからかもしれませんし、中学に入ってからかもしれません。その日も私は高校の教室で自分の席に座って、髪と襟の間の日焼けしていなくて白い彼の首を後ろから眺めていました。今視界に入らなくても彼の姿は目に焼きついています。下ぶくれの輪郭、細い目、団子鼻。世間で言うところのイケメンではもちろんありませんし、身長が高いわけでもないですしむしろ小さくて小太りでしたけど、彼の身体や顔も私にとっては愛おしかったのです。何故、彼が好きなのか理由もわかりません。だけれど気づくと私は彼の方を見てしまうのです。彼は授業中にも関わらず、教科書で衝立を作ってスマートフォンで遊んでいるようでした。私はインフォメーション・テクノロジーに関しては現代人なのを疑うくらいからっきしダメでしたので残念です。何もインターネットができないから残念なわけではありません。彼が日頃からやっていることを理解できないのでくやしくてさみしくて残念なのです。彼のことなら足の小指の爪の先から髪の毛先まで知りたいのです。

家で予習復習をしていますから学校の授業なんて真剣に聞かないでも勉強は人並みにできました。ですから私の席より教室のずっと前の方に座る彼を眺めていました。今朝は何を食べたのかな? 好物は何なのかな? 私のような見た目の女子は嫌いじゃないかな? やっぱりテレビゲームもするのかな? アニメや漫画も好きなのかな? それとも普通にドラマとか見てるのかな? そんなことを彼の背中を見つめながら私は毎日のように思っていました。

 

滅多に両親は帰ってこない庭付き一軒家の私を示す記号は本棚くらいしかない自室で、朝、目を覚ましました。数週間に一度くらいの頻度で母の妹の私から見て叔母さんが様子を見にくるだけで実質私の一人暮しでした。制服のブレザーにスカート姿に着替えますと、顔を洗い歯を磨き、卵焼きを焼いて、昨日の夕食の残りと合わせてお昼に食べるお弁当を作りました。まだ時間が早かったので、テレビでニュースを眺めてから家を出ました。通っている高校までは徒歩で十分もかかりません。私はアナログの腕時計をちらちらと時計を確認しながら登校して行きました。早すぎても遅すぎてもいけません。別段頭が良くなくても入れる公立校の校門をくぐり玄関に入ると、この日はジャストミートでした。私の彼……やだ、〝私の〟だなんてはしたない。とにかく彼が下駄箱から上履きを取り出しているところでした。私は足を止めてその愛おしい姿を眺めていました。するとなんと彼は下駄箱から上履きではなく手紙を取り出しました! 私の他に彼が好きな女がいたなんて……彼は辺りを警戒することなくそのいかにもラブレターが入っていますよと言わないばかりの白い封筒を鞄の中にしまいました。私はショックで彼がいなくなってからもその場に立ち竦んでいました……それから数分後、教室に行きました。私は女の癖に身長が百七十二センチもあって彼より大きいですし席も教室の一番後ろでした。ずっと彼のことを想っていました。彼は今日も授業中スマートフォンで遊んでいます。見た目に騙されていましたけど彼はもう女を知っているのかもしれません。私はまだなのに。確定したことでもないのに私は彼に抱かれた女を想像して嫉妬に狂いました。私の方が……私の方が根拠はないけれど彼が大好きなはずです……

行動を起こさなければ。

それから昼休みまでその行動について計画を立てていました。そうして昼休みになると、子供の頃をのぞいたら初めてと言ってもいいくらい久しぶりに彼に話しかけました。私が彼の席の前まで来て、ちょっと……と言いますと、なに? と彼は私を視界に入れました。勇気を出して彼の手首を掴みました。ちょっと来て、腕を引くと彼はその場に立ち上がりました。俺、何かした? 彼は不安そうな顔で私の目を見て言いました。それだけで私は天にも上る気分でしたけど、無言で彼の腕を引っ張って校舎内を歩きました。そうして上履きのまま玄関から外へ出て校舎裏で私は足を止めます。今朝ラブレター下駄箱に入ってたでしょ? 誰からなの、そう私が言いますと、彼は君には関係ない、と言いまして私から視線を逸らしました。衝撃を通り越してなんだかムカついてきました。瞬間、私は、スカートのポケットからペン型スタンガンを取り出すと彼の首筋に当ててボタンを押しました。それは今はもう家にいない姉の部屋に残った彼女の私物でした。彼はその場に倒れて動かなくなりました。小さな目が白目を剥いていて私は不謹慎ですけれどちょっとだけ可愛いと思ってしまいました。身体を起こすと、私は彼をおぶさり、上履きのまま校門を出まして、自宅を目指して歩きました。途中何人かの通行人の見られましたけれど、そんなことは気にしないで歩いていると家まで辿り着きました。鍵を開けて中に入り、階段を上り、私の部屋のベッドに彼を寝かせました。感動的光景です! なんと大好きな彼が私の部屋にいるのです。彼を置いて姉さんの部屋まで行きましてSMグッズとマニュアル本を取ってくると、彼の叫び声が外まで漏れないように黒いボールとバンドで出来た口枷を口に噛ませ、手錠で手首と足首を拘束しました。彼はまだ気絶しているようです。私の心に助平な気持ちが湧いてきました。ベルトを外してズボンとパンツをズリ下げますと、彼のペニスを見つめました。他の男性器を見たことがないので何とも言えませんが、それは男性の象徴のように感じました。

 

彼が眠っている間に、学校に戻りまして、私と彼の靴と鞄を回収してきました。ベッドの上の彼を放って、朝見たラブレターを彼の鞄から取り出しまして、内容を確認しました。どこにも好きだとも付き合ってくださいとも書かれていなくて、それは交換日記のようでした。よく見ると白い封筒もラブレターを入れるような横型の物ではなく縦型の限りなく白に近いグレイの普通の封筒でした。差出人の名前も書いていなくて、イニシャルでM・Mとだけ書かれていました。私は学校に友達らしい友達もいませんしクラスメイトの名前も全員は覚えていませんでした。はて、M・Mとは誰なのでしょうね。手紙を何度も読んでいると彼が起きたようで布団と身体が擦れる音が聞こえました。姉さんが家に残していった口枷はよく出来ているようで、彼の声はまったく聞こえてきませんでした。聞こえてくるのは荒い鼻息だけです。彼はおびえた目をしていました。大声出さない? と聞きますと、彼は大きく頷きました。ベッドの上で横になっている彼の身体を私の背中を向けるように転がしてまして、頭の後ろで口枷を外しました。君は何がしたいんだ、それよりこの手紙は何? ラブレターじゃなくて交換日記みたいだけど、今時普通スマートフォンとかコンピューターでやるよね? 君には関係ない、彼のその言葉を聞いて頭にきた私は彼の頬を張りました。自分の立場わかってる? あなた、下手したら私に殺されるかもしれないんだよ、君はそんなことするのか? どうだろうね、わからない。高圧的に出てしまいまして私は後悔しました。本当はもっといろいろなことを話したかったのですけど私は無言でまた彼の口に口枷をはめ込みました。夜になるとカレーライスを作って彼に口移しで食べさせてあげました。彼は、そんなことしても嬉しくないからそれより腕と足の手錠を取ってくれないか? 結構痛くなってきた。ダメ、必要以上に自分の口でカレーライスを咀嚼して、彼の口まで運びました。正直、興奮してしまいして、彼がカレーライスを食べ終わりますと、エッチなキスをして彼のペニスを愛撫して、上に乗って自分のあそこの中に入れました。初めてだったので痛いだけで気持ちよくはなかったです。でも長年想っていた彼を自分の物にできたようでその事実は恍惚的でした。彼にあなたは今までに何人としたの? と聞きますと、これが初めてだよ、と強ばった顔で言いました。警察にも行かないし今日あったことは黙ってるから俺を解放してくれないか? 彼はこんなことを言いました。私は、ダメ! 手紙の女の所に行くつもりでしょう? とヒステリーみたいに叫んでまた彼の口に口枷をはめ込んで、同じベッドで眠りにつきました。

夜中に身体を揺すられて目を覚ましました。電気をつけて彼の顔を見ると、何か言いたがっているみたいに鼻息を荒くさせています。口枷を外すと、トイレ、もう我慢できない、と言いました。私は彼のトイレのことをうっかり忘れていたようです。彼にまた口枷を噛ませて姉さんの部屋に行くと、尿瓶がありました。それを部屋まで持って行くと、私の部屋は異臭に包まれていました。彼は目に涙を浮かべています。明日はオムツも買ってくるし、このくらい気にしないから。そう彼に言いましてベッドのシーツを替えて滅多に帰ってこないお父さんの服を持ってくると、彼の制服を脱がせてそれに着替えさせました。小太りの彼がおじさんのパジャマを着ると、本当におじさんみたいでした。

 

彼と一緒に生活するようになって一週間が経ちました。毎日食事は口移しで食べさせていましたし、近所のドラッグストアで大人用のオムツも買ってきたのでトイレも楽になりました。部屋が少し臭くなりましたが、大好きな彼の生きている証だと思うとそれも愛おしい香りでした。毎日水のいらないシャンプーで頭を洗ってあげたし、お湯で濡らしたタオルで身体も拭いてあげてました。彼は私が彼の身体を欲しがるとき以外、ずっと眠っていました。ここに連れてきたときより少し太ったように感じます。

ある日の早朝、玄関のチャイムが鳴らされました。私は一瞬で覚悟しました。警察は早朝にやってくることが多いと知識として知っていましたし窓から外を見ると本当に家の前に警察官が立っていました。私は彼との暮らしを永遠に続けるのを諦めて、勉強机の引き出しからカッターナイフを取り出してチキチキと刃を出しました。

それでは皆さま、さようなら。

 

2016年5月2日公開

作品集『』第1話 (全2話)

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© 2016 瀧上ルーシー

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きちがい 異常 純文学

"私と彼の話"へのコメント 2

  • 投稿者 | 2017-01-09 14:47

    素敵な女性ですね。できればおまわりなんかに負けて欲しくなかったです。

    • 投稿者 | 2017-01-11 16:21

      感想ありがとうございます。クラスの地味めの女子の内面がこんな感じだと妄想すると面白い反面、わりと恐怖です。

      著者
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