鶺鴒(2)

応募作品

狐塚月歩

小説

1,168文字

警察署にて犯人と名指しされた赤虫。彼は刑事から言われたとおり、一週間以内に真犯人を捕まえることができるのだろうか。しかし、

三体、四体とあがったさいには名も知れぬ風俗嬢が検挙されそうになり、無実だったがゆえ、むしろそれは長引いている戦争の影を引きずるかのようで警察官たちの心をさらに暗く落ちこませていた。

ただし、五体目あたりが発見されたさいにむしろ、日ごろの素行と家業が怪しいゆえに容疑者として候補に挙がっていた彼自体が身体的コンプレックスのあまり犯行に及んだのではないだろうかという疑惑と、安寧をもとめる感情が多くの警察官たちの間で生じたのだった。

捜査当局本部の刑事は赤虫にたいし、一週間以内に真犯人を捕まえてくることによって犯人候補から外すと通達したのだ。要するに、かつて連続殺人犯の疑いが濃厚だった彼を処刑したいという意向を示していた。

署まで同行した当の赤虫は、包帯からのぞく顔の引き攣れに手を当てて暫くのあいだ思考したかのような素振りを見せ、自分にはまったく身に覚えのないことなのだと主張したのだが話は平行線だった。

常日ごろからにアリバイの保証があってないような彼のことだから。とばかりに当局の刑事たちは赤虫に自首を勧告した。しかし、彼にも矜持があったらしく、

「信用のおける私立探偵を雇うので、しばらく待ってほしい。」

と自分を担当することの多い赤木三郎という三十がらみの刑事に旨を伝え、ほとほと弱りきったようすで肩をすくめてみせた。

その発言にかんしては赤虫には懇意にしている弁護士のほか幾数人かの仕事仲間が存在していることが知られており、さきほどの私立探偵というのも手駒のうちのひとつとして活用しているのだろうと判断された。

―降られている最中、赤の他人に雨傘を他人(ヒト)から親切心により差しかけられるさい、たいていの本人は人間的な感情でもってして躊躇することのほうが多い。

雨足が土砂降りの様相を呈しているなかにところどころ雑じる音が研ぎ澄まされた彼自身の聴覚へと耳朶を介し、鼓膜から中耳へと届けられてゆく。

車のエンジン音かもしれない。それは爆音とも轟音とも取れぬ。地の底から響くような音程で茫々あるいは業々とした音程を青年は察した。

それはまるで、男の叫び声にも似た。

だんだん小さくなる悲鳴と轟音は、取調室の窓に嵌まった鉄格子越しから迫りくるように開かれた窓硝子のすぐ隣で。

人間(ヒト)が生命の灯火を燃焼しつくすまでの間というのは呆気ないほど短かった。

―ひとえにそれは羞恥ではないことだけは確実だというのに、試みるときに限って他人(ヒト)という枠に納まりつつある人間として他を見たさいに決まって、僅かな時間のうちにためらいが生じる。

六体目の被害者は赤虫の事情聴取があった警察署の、すぐ裏にある駐車場にて発見された。

消火器を手にした警察官たちが燃え盛る炎を消そうとしながら救急車を呼ぼうとしているのだがなかなか消えない。

2016年4月20日公開

© 2016 狐塚月歩

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