真を写す

掌編集(第7話)

小渕太郎

小説

520文字

旅の思い出よりも、女にとってその写真は……。とても短い掌編です。

みにくさを知らしめられて、女は暗くなった。いよよ褪せそむべきよわい。たたずむ部屋はしんとして。みぎてに写真をみていた。

昨夏に山で写した。それが今になって来た。笑みのふたつ並ぶ。その後ろより、橋がしゃに伸びて、清流ながれに垂れつつ、遠くの緑へ架かる。連れが自ら撮った。

――封筒から抜き出すと、真っ先に、己が写りをた。わるくはない。と、思われたのも束の間、僅かなるきずを見いだした。おとがいが余分に出ている。偲ぶどころでなくなった。

人より少しく出ている覚えはあった。女は寧ろそれを誇った。女性にょしょうの器量を美ならしむる因子であると、心得ていたので。しかれども、写真の頤、さにあらず。思いのほかの突き出し具合。これでは却って、醜の助けとなるにちがいない。美醜の硬貨コインはうらがえった。

いまいちど写真をみる。連れの方にすこし傾くおもて。そう顎の伸びるものでもない。女は写りをうたがい、化粧台へ出た。

手鏡を用いて、そこに映した化粧鏡の中のみずからを、いろいろな角度から見澄ました。頤のいささか目立つ角度がある。写真のそれだ。

醜のまことが知られた。目を落とすと、台の端に件の写真。女は友の親しけれど、いたく恨めしがった。

2016年3月29日公開

作品集『掌編集』第7話 (全8話)

© 2016 小渕太郎

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