くずかごから酒場まで(4)

くずかごから酒場まで(第4話)

アサミ・ラムジフスキー

小説

7,745文字

特集*住石彰 ……稀代の天才・住石彰に迫る特集連載。第4回は批評家の鈴江しんきち氏による道化期の考察です。

道化師のメイク術

鈴江しんきち

 

三十代後半から四十代前半、いわゆる道化期の住石彰の文学について書かれた論考は思いのほか少ないようです。

理由のひとつには、そもそも作品数が少ないことが挙げられます。参議院議員辞職直後に発表したドキュメンタリー的性格の強い問題作「政方見聞録」を含めても、長篇小説はわずかに二本のみで、あとは一冊で収まる程度の中短篇がいくつかと、詩集が一つあるだけでした。「文学」という定義を最大限に拡大解釈したとしても、そこにレシピ集が一冊加わるだけに過ぎません。十年間の作品数としては寡作といわざるをえず、これだけをもとに作家論を語るのは困難です。

とはいえ、これは個別の作品論さえも少ないことの説明にはなりません。

やはりこの根源的な原因は、「政方見聞録」を除けば以後のどれもが、冗談なのか本気なのか判別し難いところにあるのでしょう。ああいった性質の作品について論じるのは骨が折れます。ジョークだとすれば真顔で反論するのは野暮ですし、仮に本気だったとして、この時期の作品群に対してどのような位置づけをすればよいのか迷ってしまいます。

リアルタイムでの分析の困難さでいえば処女作「現代カレーライス試論」からして同様でしたが、あちらの場合は影響力も大きく経済効果も甚大でした。熱狂が醒めたあとに冷静に分析する余地があったのです。しかしながら、好事家以外には見向きもされなかった道化期の作品の場合は、熱の醒めたころには存在自体忘れ去られてしまっていたのが大きな違いといえるでしょう。たしかに、あの時期の住石作品への感想は、「またやってるよ」といったものが多かったことを覚えています。

その契機となったのが「政方見聞録」だったことは間違いありません。フィクションを自称しつつ実在の代議士の名前がこれでもかと使用されたこの作品は、発表直後に八十人以上から訴訟を起こされたことで話題を集めました。しかし一方で、あの一件を機に住石彰からすっかり生気が失われたのは、傍目にも見てとれました。以後、商業性から離れた地平で実験をしているという点でかつての音楽活動と変わりはありませんでしたが、それ以前のあらゆる表現活動に見られた極端なまでのストイックさは影を潜め、開き直ったかのように馬鹿馬鹿しい試行ばかりを繰り返すようになっていきました。あの伝説のバラエティ番組「ふらっと5」において、アイドル時代以来十六年ぶりのレギュラー出演を果たしたばかりか、全身タイツ姿で毎週クロースアップマジックを披露していたことは、その最たる例といえるでしょう。翼をもがれた鳥は、わざとらしく迷走するほかなかったのです。

2010年8月8日公開

作品集『くずかごから酒場まで』第4話 (全11話)

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© 2010 アサミ・ラムジフスキー

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