中洲バードウオッチング愛好会(3)

中洲バードウオッチング愛好会(第3話)

山谷感人

小説

2,439文字

 どこまで、博多で迷走するのか、時代の徒花なのか? 中々と前へ進めない(内容的、筆者がパソコン打ち込みを放擲する事も含め)『狭間派』で、あった。(3)サザンロックと硯友社。

3 サザンロックと硯友社

 

刹那、これにはどう対応して良いか判らず、ぽかんとした表情になった『狭間派』メンバー七名であったが、いち早く気を取り直した名目幹事カントが、口を開いた。

「え? ここは、ホテルカリフォルニアって店名なの?」

「あ、いいえ、全然と違いますけど」

「なら俺等を、からかっている訳?」

「……あの、客引きの人に指示されまして」

「ふうん。まあいいや。然し大体、少なくとも俺はサザンロックが好きなのよ。どっちかと云うと逆に、イーグルスとかのウェストコースト系バンドは敵ね。顔芸もしているギタリストは格好いいが。あ、サザンって、オールスターズの事じゃあないぜ」

「ちょっと、不明な点が多いし戻りますね……」

嬢は、こっちこそライダースの革ジャンなぞを無理矢理、着せられたりで迷惑しているんだよ! と喉まで出掛かったが、これも仕事の内だと個室ルームより退出した。それを見届けてから、アッシャーが言った。

「なんか、あの牛太郎、勘違いをしていた様子だったし」

「変な妄想の虜な節があったね」

テッシーが、苦笑を漏らしながら首を縦に振った。ピルビル、オダロッテ、カガワは未だに、きょとんとしていた。主幹フミキンは成る程、こう来たか、なる諦観の境地じみた独り言を吐いた。深遠な古代史の話題。その余情は、ちぎれ雲の如く、素早く消え去っていった。

 

名目幹事カントは、これはイケナイ、折角と自身の主導で場が活気を帯びてきたのに……、そうした下手な使命感にも捕らわれ、グラスの焼酎を一気呑みし立ち上がった。俺に任せて呉れ、いいからさ、と皆へ告げ、ドアを開けてフロントに向かった。まあでも、腹痛を和らげる為に、まずはトイレットへと、横着をしようと思ったが丁度、ギャルソンが此方へ遣って来た。

「すみません。お客様との意思疎通が上手くいかなかったみたいで」

「戯け者と、尾崎紅葉なみに怒鳴りたいトコロだが、過ぎた事を、くどくど愚痴っても不毛、無意味だ。但し、判っているよね」

「どう致しましょうか?」

「おっと、ここはさ、客商売を提供する場所だよね。仕事のミスは仕事で返さないと。金銭じゃあないよ」

所謂、一般的に云う勤務、をしていない名目幹事が労働の峻厳さについて気随気儘に語っただけなのだが、そうした実情を識らないギャルソンは、慌てて答えた。

「本日は休みの、店長と電話で相談してからになりますが、まず指名しないと絶対に付かない、ナンバーワンやナンバーツー人気辺りの、女のコを御用意する。これで如何でしょうか?」

「最初の五、六分くらい来てグッドバイだろうが」

「いいえ、そうならないように誠心誠意、対応をさせて頂きます」

所詮、使命感でああだこうだは枝葉であって、詰まる所は粋狂と『狭間派』メンバーへの伊達で難癖を述べていた名目幹事だったが、ギャルソンへ想像以上の気遣いをさせてしまい、当惑した。心算としては単に、まあ諸々と交渉したけど彼等、阿蒙だからなあ、よし我々だけで愉しみ呑み直そうぜ、と六名にポーズ、言い訳だけ出来れば良かったのだが。

「……じゃあ、宜しく、ね」

最早、彼にロックやプロレスごっこをするのは酷だと悟った名目幹事は、自身の癖でもあるアイロニカルな捨て台詞も吐かず、背中を向けた。

 

ついでに暫くトイレットへ籠り済ませ、個室ルームへ戻った名目幹事を待っていたのは、既に嬢が人数分、席に座っている状態であった。

こうした業種では基本的に、店がオススメしている順番で奥の方から客へ付くモノなのだろう、偶々と腰を下ろした並びなのだが、主幹の横から、さながらこれぞ夜の蝶ですよ、なる派手なルックスランクを配置している様相だった。それぞれの会話は、可もなく不可もなく進展していた。

「おかえりなさい、初めまして!」

ハスキーな声で、おしぼりを渡された名目幹事は、啄木の詩のエピゴーネンをして、ぢっとその女性の顔を見た。メンバー七名、容姿には拘泥しないタイプだが、ドア横、七番目の嬢も華やかさの香りはあった。

それから二十分くらい、不粋ではない故、自然と席が近い個々のグループ単位で嬢と談話していた『狭間派』だが、徐々にメンバー、口数が減ってきた。要は、単純に云えば、夜の蝶との組み合わせ相性が図らずも悪かった。

主幹やアッシャー、テッシーのグループは振られたハナシの流れで「博多どころか、九州に初めて来訪したので、ここ等の方言で喋ってよ」とノリで伝えたトコロ、そのナンバーワン、ツー、スリーらしい相手は、いやそうしたキャラじゃないから、嫌だし、生まれは別だから、などと善意を汚されていた。オダロッテとカガワのグループは、これも場を盛り上げるサービスの気持ちで、率先して自身の知識を語ったが、リアクションが薄い相手だった。名目幹事とピルビルは真逆に、お互い九州出身なのだが、完全なる地元嬢が相手で、呑めや話そうやなる、南国式接待をされ、甚だ滅入ってしまった。ピルビルは真摯に武術鍛錬している上、体質的にもアルコールを好まないのに無理矢理と勧められるし、カントは『狭間派』としてはまたもや繰り返しの、何をしている人達か? 何の目的で博多へ来たのか? 何をこれからするのか? そうした企業のスローガンみたいな質問を執拗にされていた。「サザンロックだよ、硯友社だよ」と適当に返答をしても、え? 何それ? と食い下がられる。最早、笑って、そっか、で四方山話すればいいのに、と詰る気分にもならなかった。

そもそもメンバー七名、誰も示し合わせ隠す訳では無論、然に非ずだが悲しい哉、現代これ平成の世。関係がない遊興の場で堂々と「俺達は文藝集団でねえ……」と態々、したり顔で吹聴する間抜け、或る意味、恥知らずな連中なぞ、そうそう居ないだろう。

名目幹事の落筆点蝿は叶わず。全てが裏目々々。博多に着いてから中々、軌道に乗れない『狭間派』であった。

2015年11月23日公開

作品集『中洲バードウオッチング愛好会』第3話 (全4話)

© 2015 山谷感人

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