中洲バードウオッチング愛好会(2)

中洲バードウオッチング愛好会(第2話)

山谷感人

小説

2,256文字

 名目幹事が勝手に決めた博多版・小岩の東京パレスへ向かう事になった、狭間派のメンバー七名。果して、どんな茶番劇が待ち受けているのだろうか……。
(2)牛太郎の場合とホテルカリフォルニア。

2 牛太郎の場合とホテルカリフォルニア

 

牛太郎は、店舗へと『狭間派』七名を案内しながら考えた。

元々、一人一時間、五千円也で連れて行けば自身に歩合が入る故、金銭、それはいい。勝手に女のコも呑み放題へとしたのも、嬢に自ら頼むな、この連中に頂けと言われても、ギャルソンはアルコールだとして、ただのジュースを持っていくから、と伝えておけばいい。然し、こいつらは、他の客とは違うな、とも思った。社長、傾奇者と呼んでやった莫迦は、些細な事で騒ぎそうだが、まだ与し易いとしても、残りの渋々とした態で付いて来ている六名は、ちょっと、普通の一見客扱いをしたらマズイ雰囲気を漂わせている。これでも俺は、博多界隈では有名な客引きのプロだ、なる妙な直感が働いた。

「ええっと、ところで皆さんは、何の集まりですか?」

「ナンパされた女性の台詞じゃないけど、さて、どう見えるかい?」

牛太郎は、交渉して隣を歩いている阿呆に、お前には聞いてないよ、と腹の底で毒づき、後方の六名へとすり寄り、顔を向けて続けた。

「思うに皆さん、服装に拘りがありそうなので、アパレル関係の懇親会でしょうか?」

人間、誰しも明らかな襤褸を纏っている者以外、外観、風体を褒められると悦に入るモノだ。牛太郎、必殺の太鼓持ち技術を繰り出した。だが、この渾身の一撃には、一切、返答がなかった。所謂、大袈裟に云えば、万事具備・只欠東風の状態であった。

これは下手に、お愛想を述べるのは逆効果だな、彼が暫く焦っていたら、集団の中で一人、スーツを着ている長身の二枚目が、何やらブツブツと呟いているのが耳へ届いた。「……ロックなのか、これもロックなのか」そう聞こえた。それに対し横にいた、恰幅が良く朗らかそうな相棒風が「ハードロック、へヴィメタルだよな」と囁いていた。すわっ、これか! と牛太郎は独断的に決めつけてしまった。

「御見逸れしました。私としたが……。ミュージシャンの方々ですね。自分も洋楽ロックとか好きなのですよ」

「え? 何それ、どう云う飛躍した展開?」

さっきからずっと、携帯電話を弄り、仕事、打ち合わせメールをしている様子の、坊主頭でセンス良く髭を整えた人物が、牛太郎にそう言った。

「いやいや、もう大丈夫ですから。お任せください」

帽子を深く被り、常に咳き込んでいる奴、穏やかそうで、テレビにて観た事がある昔の、貴公子みたいな風貌の御仁、他に気を使っている感じだが、一目で武術をしているな、と判る精悍な顔つきの男。

まだ自身が、まともに声を聴けていないメンバーが三名いたが、牛太郎は己からハナシを途絶えさせて、大股で歩きだした。

 

やがて四、五分し、牛太郎に連れられ『狭間派』メンバーは、或るビルへと辿り着いた。エレベーターで九階に案内されて、七名と云う人数の為か、個室ルームに入れられた。牛太郎は何度も「ちゃんと指示しときます」と皆へ語り、去って行った。

「まあ、是非に及ばず。来たからには愉しまないと意味がなし。金銭は、俺とカントの折半で」

「お、フミキン、よくぞ言った。金銭は確かに、按分とか面倒だしな。さっきもハナシしたが、百ルーブルとか百円がどうだは二の次、三の次の問題なのだよ」

「だからもう、そうした比喩も、いいからさ。但し一時間だけね」

「アイアイサー」

主幹と名目幹事の遣り取りに残りメンバー五名も、其々の表情をして肯いた後、大きなテーブルの左右にある、ソファーへ腰を下ろした。

席順は、適当に座ったのだが、左奥からフミキン、オダロッテ、カガワ。右奥からはアッシャー、テッシー、ピルビル、カントだった。

カントだけは一応、今回の博多での名目幹事だし、この店に誘い選んだ本人な故、ギャルソンとの窓口役、更に腹痛は実際だったのでトイレットに近い、個室ルーム入口、ドア横に自ら陣取った。皆様への準備と、女のコが七名同時に揃うまで、三十分くらい、お待ち下さい。勿論、時間カウントは致しませんし、その間も呑み放題です。ギャルソンが一度、恭しく入って来て、そう述べた。皆様への準備。それの趣旨が良く理解が出来なかったが、仕方ないな、呑むか、でメンバーは酒を傾け始めた。

焼酎と置いてあった乾き物を舐め、齧りながら、ハナシは自然と、古代史へと移っていった。主幹とアッシャーが、縄文時代の研究を始めたらしく、この日の昼間、福岡空港で集合してからも二人の希望で、間近にある板付遺跡を訪れていた。やがて内容は、この史学では避けては通れない、邪馬台国は結局、何処? の話題となった。

九州出身のカントとピルビルは無論、佐賀やら大分、宮崎説に拘る。関西出身のテッシーとカガワは、大和、四国説を唱える。関東出身のフミキン、アッシャー、オダロッテは、各々の学術から諸々なる場所を提示する。議論が白熱としてきた折り、ピルビルが言った。

「いやあ、初めて逢ったメンバーが多くて、少し遠慮していたけど、矢張り皆、其々に詳しくて愉しいな」

「店の女のコとか来なくて、このまま会話していた方がいいなあ」

テッシーが、そう応じた。

まあ、俺が一等、識っているけど、いやこの説ではねえ、など、主幹やアッシャー、オダロッテ、カガワも同調し、明るく和やかな口論となり、流石の名目幹事も「このままが、だねえ」と一言を発した瞬時、ドアがノックされ、まずは一人の、夜の蝶が現れた。ライダースの革ジャンなる恰好で第一声が「ホテルカリフォルニアへ、ようこそ!」だった。

2015年11月10日公開

作品集『中洲バードウオッチング愛好会』第2話 (全4話)

© 2015 山谷感人

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