中洲バードウオッチング愛好会(1)

中洲バードウオッチング愛好会(第1話)

山谷感人

小説

3,169文字

 最後は、私小説スタイル論まで語る、野心的な作品。筆者、パソコン打ち込みに慣れていない故、腱鞘炎になりながらの推敲なし、待望の連載!

十月下旬。サタデーナイト、二十一時頃。

九州最大の歓楽街、中洲に着いた時、『狭間派』の主要メンバー七名は皆、疲れ果てていた。明日、博多で開催される或る文芸会合に参加する為、現在はそれぞれの活動地域、関東やら中部、九州などから昼過ぎに集合していた。

主幹のフミキンは、十数年ぶりに味わっているらしい喘息に苦しんでいた上、まだ二歳にもならない双子の子育てが大変の中でのフライト、自然と圭角が多くなっていた。調整役のテッシーは、間もなくの結婚を控えて、ここ二週間ばかり多忙だった。この同人誌で人気を博しているアッシャーは自身の仕事で、ビートルズなみのハードスケジュールを抱えながらの訪問であったし、同人ピルビルは、これまた結婚の予定があり多忙、更に、初顔合わせのメンバーが多く、優しく気を使わざるを得ない。

今回の名目幹事なるカントは腹痛に悩んでいたし元来、九州出身だから上手くエスコートしてよ! なる皆の発言に、適応が出来る人種ではなく、早くも自棄になり酔いどれていた。善人のオダロッテとカガワは、主幹や名目幹事の「体調悪いな。アイテテ、アイテテ」に「大丈夫?」と配慮したトコロ、「ロック、プロレスごっこ、してるんだよ! いちいち気にすんな!」なぞ言われて閉口していた。中洲川沿い、屋台ラーメンの暖簾が、悲しく揺れていた。

 

「どうする? 明日の会合まで別々に行動するかい?」

ラーメンを喰らう訳でもなし、集団の七名でリバーサイドを当てもなく、それでも見た目は武者練り闊歩していたら、主幹がそう言った。安堵、肯定、無関心、興醒め、レットイットビー。そうした諸々の言葉が、他のメンバーの心に湧いたが一人、名目幹事だけは即座に、それへ噛み付いた。

「その台詞は気に入らない。まあ俺ら、ぶらぶらしているだけで、集団行動を仕切るのは主幹なる君だけどさ、言い方ってものがある」

主幹は、喘息で咳き込んだ後、憐れなモノを見るような顔をして返答した。

「いや、だからさ。主幹の俺がどうのじゃなく、君が名目だけでも今回の幹事だろ? 俺も含めて他は皆、忙しい中にわざわざ博多まで来たんだよ。それに昼過ぎ、集まってから満足な食事もしてなく、歩いているだけだしよ」

テッシーとピルビルは、どちらへ肩入れする風でもなくの、助け舟を出そうと思って同時に「まあ」と言葉を発したが、名目幹事はそれを手で制した。アッシャーは敢えて、ほっといておいた。オダロッテとカガワの両人は、体調を心配したら、うるさいよ、と何故か怒鳴られた二人の会話な故、見守るしかない。

「よし。じゃあ何処へ行きたいんだよ、主幹さんは!」

自身が腹痛だ、腹痛だのアピールをしていたのを、すっかり忘れた調子で、名目幹事は続けた。

「だから解散して、ホテルに戻りたい人は戻る、観光したい人はする、腹が減っている人は食事へ行く、でいいじゃない」

「ふざけんなよ! チームワークだろが!」

これには、他のメンバー五人も凍りついた。いや、少なからず本日、今夜、ただいまの現実では、チームワークの欠片すらない流れに陥っているから、君ら二人は不毛で下らない、言い争いしているんでしょ? と。アッシャーは堪え切れなくなったのか、失笑した。

では、先にサリュー。明日ね、と主幹は去ろうとしたが、愚かな名目幹事は、まてよ! と彼の腕を掴んだ。その衝撃で、喘息の咽ぶ音が鳴り響いたので、目の前にあった屋台の親爺は、此方をギラッと睨んだ。

「オシャレにフランス語を使って、消えようとするんじゃねえ。よし、これから小岩の、東京パレスみたいなトコへ連れて行ってやる」

「え? 小岩の東京パレスって江戸川の? 博多、関係ないし」

「だから、ぽいトコって、言っているだろが」

「小岩の東京パレスは、太平洋戦争後の一時期、有名だった旧青線の店名だよね? そんなモノも、現代じゃないぞ」

「旧青線じゃなく、旧赤線だよ! 半解に語るな。ぷぷっ。君が昔、俺が読んだ書籍を全て積み重ねたら、富士山を越えると泥酔して豪語したのを思い出し、滑稽でならない」

「……ふん。半解なのは、どっちだよ。明治から昭和初期の文芸愛好家を気取っているらしいが、龍胆寺雄、も識らないくせに」

「あれは、昭和中期以降の文士扱いだし。だから、いちいち読まない」

「面倒なヤツだなあ。取り敢えず君は、海外作品文盲な時点で、終わっている」

「百ルーブルがどうしたこうしたとかで、小説を読まされても、実感がないんだよ!」

「それこそ、明治から昭和初期までの文芸なんて、百円がどうしたこうした、の作品が多いだろ」

ここからも、論争が約三十分、続いた。

残りのメンバー五人は最早、莫迦らしいな、だけの感情しか持てなくなり、かと云って立ち去る事は遠慮してやり、テッシーとピルビルは幸福な結婚に向けてお互いのハナシ、アッシャー、オダロッテ、カガワは、ちょうど博多で開催されていた、プロ野球、日本シリーズの話題をした。なお文芸に付いて二人が語っていた事は、どちらにも微妙に、それこそ半解な部分があり、実は五人、違うだろ? と指摘したい気持ちもあったのだが。

 

やがて、結局は主張をし出したら強制する、名目幹事の横暴さに付き合う格好で、七名は女性が居る店を探す有り様となった。全く、連れて行ってやる、の華やいだ雰囲気ではなかった。冒頭から何度も述べたが、主幹は体調不良だし、眠い。テッシーとピルビルは結婚を控えていて無論、そうした店には行きたくもない。アッシャーは美食家で、初めて来た博多のラーメン店へ行きたかった上、主幹と同様、個人でクリエイターの仕事もしているから、頻々と携帯電話へ問い合わせメールが来ていた。女遊びどころじゃない。オダロッテとカガワは、もう何がなんやら判らなかった。善人は、つらい。

「ところで、金銭はどうするの?」

主幹が、さりげなく口を開いた。

「ん? 適当に、どうにかなるでしょ?」

「え?」

「あっ!」

「はぁ……」

「ソー・タイアード」

「これもロック? プロレスごっこ?」

一斉に皆、立ち止まった。そうして名目幹事を凝視した。注目された彼が更なる発言をするより早く、一人の若い男が、この集団へ声を掛けた。

「こんばんは! これからどちらへ遊びに行かれますか!」

所謂、牛太郎、キャッチの、お兄さんである。

「小岩の東京パレス案内だよ!」

「え? 小岩の東京パレス? 女のコが居る店ですよね?」

「識っているねえ」

牛太郎は、その小岩の東京パレスなんとかが、何の事かは理解していなかったが、女のコが居る店だよね? と返しただけであった。何故なら、それが仕事だから。

「予算は、どれくらいです?」

「無料同然で、煌びやかなトコロで」

「……そんな、夢みたいな店は、現実では何処にもありません。が、一時間、呑み放題で一人、七千円でどうでしょう!」

「高い。下のサービスあるからかい?」

「そのサービスも、ファンタジー過ぎてある筈もないですが社長! よっし、大負けに負けて一人、六千円。然も、女のコへの呑み代も込みで!」

「ハナシにならないな、アンちゃん。じゃあな」

「……くっ。私も漢だ。五千五百円! さあ、次は社長が傾奇者として、私へ応えて頂く番です」

傾奇者。その一言に、名目幹事は狂喜した。眼を爛々と見開いた。牛太郎はギャンブル依存症で、その傾奇者なるフレーズも、パチンコ屋で憶えたモノに過ぎなかったのに……。

「アンちゃん。判っているね。博多の、小岩の東京パレスに認定した。案内したまえ」

主幹を筆頭に、残り六名のメンバーの気持ちを置き去り、更に結局、金銭はどうするの? を忘却の彼方へして、名目幹事は一人、全てを決断した。

2015年11月1日公開

作品集『中洲バードウオッチング愛好会』第1話 (全4話)

© 2015 山谷感人

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"中洲バードウオッチング愛好会(1)"へのコメント 2

  • 投稿者 | 2015-11-02 00:17

    えーと、これだけ自己愛というか、痛々しい、文学臭に満ち溢れた文章は今時、逆に珍しいなと思う。たぶんこの人って未だに太宰とか三島とか好きなんだろうなと思うと、憐れみの思いがこみ上げてくる。ここまで典型的な「自分だめだぜべいべー、文学だぜべいべー」とかっこつけてる人が現実に存在しているということが、わたしにとってはファンタジーなので、そういう意味では新鮮でした。かわいそうだね。

    • 投稿者 | 2015-11-02 00:45

      コメント有難うございます。以前、ツィッターのフォロワー要請をスルーして、すみませんでした。太宰とか三島は教科書的に過ぎ、多分、誰も好きな文藝だと、思っていません。更にシリーズモノな故、(1)で解決をされても……。
      先生の、またの作品も、愉しみにしております。

      著者
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