赤虫(2)

応募作品

狐塚月歩

小説

840文字

やけどを負った青年は東京から北海道へ。そして、「オ恨ミ申シ上ゲマス」という怪文が。

「ぴちぴち、ぴちぴち。」火にあぶられながら畳の上に十数匹の赤い 琉金がのたくっている。もがき苦しむ彼等を尻目に、出口まで急ぐ彼は時すでに遅く、「どっ」と音を立てて床が崩れた。

 

油に引火した火炎は町全体と、男の全身を包みこんだのだった。のちに、東京大空襲と呼ばれる大火災のことだ。

 

数日のちに、がれきの中から大やけどを負った佐藤史郎本人とおぼしき男性が救出され、都内の病院にて目を覚ますも、顔もふくめた全身の皮膚の焼けただれたようすに三日のあいだ、声がつぶれるまで泣き叫び続けた。

 

「いっそころせ、殺してくれ。」

 

二週間ほどで北海道の夕張にある実家から東京までのあいだを駆けつけた、佐藤史郎の母親は悲嘆にくれながらやけどの痛みと喪失感にさいなまれる佐藤史郎本人らしきひとりの青年を、顔の包帯もとれないうちに自宅にまで連れ帰ったのだが、彼はその二週間後に行方不明になる。

 

―オ恨ミ申シ上ゲマス。

 

もともとの筆跡とはあまりにかけ離れた金釘流の文字で、ふせっていたはずの白い敷布へと文字にてしたためられたものは、彼自身が将来の自分として未来に有する希望を見失ったがゆえに将来を悲観したせいで家族らにのこした置き手紙としてみなされたものだった。

 

三日後、顔面をふくむ全身が焼けただれた男の遺体が道内の警察により鉄道の線路で轢死体として発見されたのだけれども、佐藤史郎の母親と祖母により、本人なのだと認定された。

 

彼自身の全身におよぶいまだ治りきらぬやけどの皮膚と、列車に轢かれてちりぢりになった肉片、そして血液型が物語っていた佐藤史郎本人自身である証拠は、彼の親族や友人には、比較的華々しかった人生の幕引きにしてはいとも無残なものとしてのちのちにも語られることとなる。

 

そのころ東京。現地では夜、新宿に化けものがあらわれるとの噂が、そこかしこでささやかれていた。

2015年11月1日公開

© 2015 狐塚月歩

これはの応募作品です。
他の作品ともどもレビューお願いします。

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

作者がつけたタグ

---

"赤虫(2)"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る