赤虫(1)

応募作品

狐塚月歩

小説

920文字

戦時中から戦後の日本、東京での「赤虫」という男。埋もれてゆく悪の物語。

飴玉を口の中にて転がすさい、舌でこすった部分が唾液にふやけた砂糖質を削る。それは、あたかも自分自身が飴を形づくっているかのような錯覚に陥ってゆくというパラドックスにかられるのだが、実際のところ飴は飴屋が工場で製作しているにすぎず。

 

裸電球に照らされるある夏の夜、今日も空襲のサイレンが鳴りはじめた。東京の我が家にも鳴りひびいているそれは、佐藤史郎という大学生がひとり暮らしをする木造二階建て建築、六畳一間のアパルトメントにて彼は、焼夷弾がいつ落ちて自分を、この古びた家屋ごと燃やしに来るのだろうかなどと考えながら長方形の水槽をかかえていた。

 

部屋の灯りをすべて消し、真っ暗になったなかで同じ町内の皆に雑じって近所の広場まで避難する気持ちにはなれなかったらしく、己をなくしたかのように夜の町に火の手があがるのをただ、開け放した窓から凝視していた。

 

飼っている琉金が十数匹入った水槽を抱きかかえるように持ち、彼は、彼自身の安全を守るでもなく戸惑いの渦中にある自らの気持ちを、波打つ水中より戸惑いを隠せないでいる金魚たちを尻目に、「じっ」と鎮めようとしていたのだった。

 

静寂のちに窓から見える遠方からちいさく火の手があがった。舐めるような炎はじきにおおきなかたまりとなったかと思うと、ふと、焼夷弾がひとつ、換気のために開け放したままになっていた窓から転げてきた。

 

「ぱっ」と、暗闇に花が咲いたように火の手があがった。どうやら窓際の障子紙に焼夷弾が触れて引火したらしく、書きかけた手紙やらノートやら、いっかいの大学生である佐藤史郎自身が日常的に使用していた書類が炎上し、またたく間に畳へと燃えひろがった。

 

気付けば窓辺からだけではなかった火の手は、舐めるように青年の周りを取り囲んでいる。したがって水槽をわきに置き、かたわらにあった毛布にて火炎を打ちはらいながら部屋から出ようと試みる。が、しかし、思いのほか火の手が強くて燃え盛りゆく炎に行く手をはばまれた彼は、最終的に大事に飼育していた琉金の泳ぐ水槽を中身の砂利ごとぶちまけることにより必死に消火しようとする。

2015年10月29日公開

© 2015 狐塚月歩

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