金木犀

狐塚月歩

小説

688文字

 君が末永く香るたび、思いだすのは枯れ葉のころで。

未だアイロンもかけていない、洗いざらしの木綿の半袖シャツが、どこのものともしれぬ甘い花の香りつけていた。物干し竿に針金製のハンガーにて吊るされた女物。湿ったままのそれを、僕はわざと身に着けてみる気になったのだ。

 

「なんだ。それは私のよ。それに、こんな時期に着るなんておかしいわ。」

 

湿ったま素肌の身にまとうと、やはり気化熱で体温が奪われてゆく。

 

―夏の盛りも過ぎたのに。

 

「馬鹿じゃないの」

 

そう言い放ってから彼女は笑った。

 

「いいじゃないか。別に。」

 

「まあいいわ。」

 

しばらくのあいだ身に着けていると、いっそのこと、僕の同居人である彼女になったかのような気さえしてきたもので、僕は晴れがましい気分におちいった。

 

「このまま着ていてもいいかい。」

 

「だめよ。大事なものなのだから、今だけにしてちょうだい。」

 

彼女は乱暴な手つきで白いままのシャツを脱がせにかかった。なので、僕はふざけて抵抗しながら、突如として素面に戻り、恋人としての彼女を彼女自体として見て、見る。見た。

 

「いやね。」

 

顔を赤らめ三つ年下の彼女は、上半身があらわになった僕の姿を自らの目の前から隠すかのようにうしろをむいた。

 

ふと鼻先をかすめるのは金木犀の強い香りだった。乾いた秋風が直接、ざらついた気管支を通りすぎたようで、僕は咳をした。

 

 

 

 

 

2015年9月13日公開

© 2015 狐塚月歩

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"金木犀"へのコメント 1

  • 投稿者 | 2015-09-14 19:11

    初めまして。申し遅れましたが私、狐坂月歩と申します。

    著者
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