夢野中

夢闇中(第2話)

趙Q

小説

776文字

著者が夢で見た五つの出来事を綴った物語。
一.夢野中
二.夢山中
三.夢昔中
四.夢船中
五.夢闇中

 夢闇中

 

  一  夢野中

 

 なんでも広い荒野の上に立っている。辺りは燃え切っている。僕は、あたか末黒野すぐろののような黒焦げの大地にたたずんでいる。考えようとしても考えられなかった。僕はここで初めて、頭が真っ白になる経験をした。情もなかった。それでも歩くことはできた。焦げ臭い。遠くに火が視える。そこから風に乗ってきた匂いが鼻をす。だいぶ広く燃えたようで、辺りを見渡しても、緑の大地はどこにもない。何だか足元で変な感じがしたからあしうらを覗いてみた。すると血塗れである。でもその時は、痛みなんてまったく感じなかったから、怪我を心配せずに地面を見た。どうやら樹の皮が剥げてそれが刺さったようで、やっぱり痛みは無かった。

 取りえず歩いた。歩く他にすることがなかったからだが、遠くに丘が視えたので、一寸ちょっと登ってみたくなった。本当に周りには何も無くて、ただ焼け残りの切り株や、極細の炭にった幹しかなかった。生き物は当然居なくて、黒土くろつちや燃殻から煤塵ばいじんがぷすぷすと溢れていた。空は濛々もうもうとしていた。何だか人間じゃない気がしてきた。頭の中が空っぽで、脳がない感覚がした。人間ひとじゃない、何かになった気がした。まだ興味が残っていたから、自分は機械ではないなと思った。

 ようやく丘に着いた。けれども、案の定全部焦げていた。僕はそうして、この世界がすべて焼け落ちて、すべての生命が滅んで、終に自分一人になってしまったんだなと思った。途端に、体中が熱くなって、視界も消えていって、地面に倒れた。倒れたところで、自分が燃えていることに気付いた──火を消そうとも思わなかった。僕は最初から、少しずつ燃えていたんだなと、焼けていたんだなと、あのとき痛みが無かったのは、既に足が燃えて炭になっていたからなんだなと思った。地面が灰だから判らなかった。

 僕は到頭とうとう黒焦げになって、変わり果てた姿になって死んだ。

2025年5月11日公開

作品集『夢闇中』第2話 (全6話)

© 2025 趙Q

読み終えたらレビューしてください

この作品のタグ

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

"夢野中"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る