夢闇中
一 夢野中
なんでも広い荒野の上に立っている。辺りは燃え切っている。僕は、恰も末黒野のような黒焦げの大地に佇んでいる。考えようとしても考えられなかった。僕はここで初めて、頭が真っ白になる経験をした。情もなかった。それでも歩くことはできた。焦げ臭い。遠くに火が視える。そこから風に乗ってきた匂いが鼻を射す。だいぶ広く燃えたようで、辺りを見渡しても、緑の大地はどこにもない。何だか足元で変な感じがしたから蹠を覗いてみた。すると血塗れである。でもその時は、痛みなんて完く感じなかったから、怪我を心配せずに地面を見た。どうやら樹の皮が剥げてそれが刺さったようで、やっぱり痛みは無かった。
取り敢えず歩いた。歩く他にすることがなかったからだが、遠くに丘が視えたので、一寸登ってみたくなった。本当に周りには何も無くて、ただ焼け残りの切り株や、極細の炭に為った幹しかなかった。生き物は当然居なくて、黒土や燃殻から煤塵がぷすぷすと溢れていた。空は濛々としていた。何だか人間じゃない気がしてきた。頭の中が空っぽで、脳がない感覚がした。人間じゃない、何かになった気がした。まだ興味が残っていたから、自分は機械ではないなと思った。
ようやく丘に着いた。けれども、案の定全部焦げていた。僕はそうして、この世界がすべて焼け落ちて、すべての生命が滅んで、終に自分一人になってしまったんだなと思った。途端に、体中が熱くなって、視界も消えていって、地面に倒れた。倒れたところで、自分が燃えていることに気付いた──火を消そうとも思わなかった。僕は最初から、少しずつ燃えていたんだなと、焼けていたんだなと、あのとき痛みが無かったのは、既に足が燃えて炭になっていたからなんだなと思った。地面が灰だから判らなかった。
僕は到頭黒焦げになって、変わり果てた姿になって死んだ。
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