はめにゅー

“三島の愛人” 福島次郎の幻のデビュー作『現車』が完全版に

あまりに大長篇すぎるため前篇部分しか書籍化されていなかった福島次郎のデビュー作『現車』が、56年の時を経てついに完全版として刊行された。

2006年に他界した小説家・福島次郎のデビュー作『現車』が、このたび論創社より初の完全版として刊行された。1961年に発表された『現車』は文学賞を受賞し文壇への足がかりとなった作品だが、原稿用紙2,000枚超という長さがネックとなり、これまでは前篇部分しか単行本化されていなかった。56年の時を経ての完全刊行となる。

福島次郎は、戦後の熊本を代表する作家のひとりだ。芥川賞候補にノミネート(そのときの受賞者は川上弘美)されるなど文学的に高く評価される一方で、自身のセクシュアリティから同性愛を主題にした作品が目立ち、センセーショナルな話題にも事欠かなかった。なかでも、三島由紀夫との同性愛関係を書いた自伝的小説『剣と寒紅』(1998)は、三島の遺族から訴訟を起こされ出版禁止処分を受けたことで有名だろう。

今回完全版が刊行された『現車』は、まだ専業作家になるまえの福島が高校教師をしながら執筆した小説だ。「賭博の胴元をしていた母のもとに生まれ兄弟全員が種違い」という自分自身の壮絶な生い立ちをモチーフに綴られた作品は、戦前の熊本の庶民生活を生々しく描写している点が高く評価され、1961年に第3回熊日文学賞(熊本日日新聞主催)を受賞した。

ただ、このとき発表されていたのは前篇部分だけであり、受賞を受けて書籍化されたものは作品としての完結を迎えてはいなかった。その後1964~66年にかけて後篇が雑誌上で発表されるが、あまりの大長篇になってしまったがために、完全版での書籍化は長年実現していなかった。作者の死後10年以上が経過してからデビュー作がついに日の目を見るというのは、なかなかドラマティックな話ではないだろうか。

前篇は300ページ超、後篇にいたっては400ページ超の大長篇とあって、2冊合わせて5,400円にもなる高額な書籍となっているが、興味のある読者はぜひ手にとってみてはいかがだろう。