山梨県立文学館では、2016年8月28日(日)まで特設展『宮沢賢治 保阪嘉内への手紙』が開催中だ。賢治の友人だった保阪嘉内が山梨県韮崎市の出身であることから企画されたもので、73通の手紙が展示されている。

生涯にわたって孤独なイメージの強い宮沢賢治にとって、保阪嘉内は唯一無二の親友と呼べる存在だった。2人が出会ったのは盛岡高等農林学校時代のことで、在学中にはともに文芸同人誌『アザリア』を創刊してもいる。保阪が山梨に帰って以降も友情は続き、のちに宗教観の違いによって絶交状態になるまで2人は互いに手紙を送り合っていた。今回展示されているのは、その友情の証となった手紙たちだ。

ちなみに2008年には保阪の息子・庸夫氏がテレビ東京系『開運!なんでも鑑定団』に出演しており、この73通の手紙を鑑定に出している。鑑定額は歴代5位となる1億8000万円で、資料的価値の高さが客観的にも証明された格好だ。もちろん庸夫氏は手紙を売却するつもりなどはなく、賢治と保阪の交流をより多くの人に知ってもらいたいという思いからの出演だったという。

手紙の中では「わが友保阪嘉内、我を棄てるな」と嘆願する記述も見られ、賢治の保阪に対する友情が執着的なレベルであったことすら窺える。『銀河鉄道の夜』に登場するカムパネルラのモデルが保阪だとする研究者も少なくない。賢治作品の背景をより深く知るための貴重な機会となるだろう。