佐川恭一の新作短編集の表題作「童Q正伝」は童Qと呼ばれる京都大学在学生のイキり倒しを活写した、平成最後の年の貴重な証言集である。脚注として添えられた近畿地方の進学校に関する佐川の評論は受験競争がもたらした悲しみのリストとして刮目すべきだ。

また、村上春樹のオマージュとして信じがたい書き出しから始まる「ナニワ最狂伝説ネズミちゃん」や、NovelJamイベントをもじった「小説覇王伝サガワ~創作イベント「ノベルGIG」に参加したら美しすぎる編集者とえっち三昧の挙げ句ノーベル文学賞を受賞した件~」、そしてNHK朝ドラ「半分青い」に脊髄反射して書いたとしか思えない「半分、入ってる」など、学歴と下ネタと文壇をコケにしているとしか思えないパロディの織りなす軽やかな笑いが今作でも楽しめそうだ。

佐川は現在「小説すばる」にてエッセーを連載中。商業媒体で活躍する作家がこんな短編集を世に放ってしまってよいのかと不安になるが、オルタナティブ・メディアならではの雑味とパンチを本作で味わってほしい。