今月は新潮、文學界、群像、すばる、文藝の5誌が発売された。5誌の概観をここで紹介しよう。

 

新潮 2019年2月号

・トップに新連載として、いしいしんじの「チェロ湖」。チェロの形をした大きな湖と生きる青年の物語である。

・その他、瀬戸内寂聴「履物屋の親友」、町田康「漂流」、松浦寿輝「わたしが行ったさびしい町」などの連載が掲載される。

・特別対談として、川上弘美とヤマザキマリによる「この国の内と外」が掲載される。日本文化の発信と海外との交流を続ける二人は互いに何を語るのだろうか。

・蓮實重彦の東大講演録「『ポスト』をめぐって」では、様々な思想に付与される「ポスト」を巡って深い考察がなされている。

・ベトナム人作家リン・ディンによる、旅行記「カワイイ、灰色の日本」も是非読んでおきたい。「日本死にかけ旅行記」の真意とは?

 

文學界 2019年2月号

・冒頭に村田沙耶香の小説「信仰」。カルト宗教を作らないかと提案された主人公の行く末を描く。

・そのほか、青木淳悟「憧れの世界」、髙柳克弘「俳句に似たもの」、黒田夏子「山もどき」等が掲載される。

・石牟礼道子の没後一年を記念し、伊藤比呂美・高橋睦郎・三浦しをんが鼎談する「没後一年 いま石牟礼道子をよむ」。

・連載小説は田中慎弥の「地に這うものの記録」、阿部和重「Orga(ni)sm」、宮本輝「潮音」。

・エセーには、森元斎、小林敏明、石川九楊。

 

群像 2019年2月号

・特集は、前回の「文学にできることを Ⅰ〈短篇創作〉」に続く「文学にできることを Ⅱ〈短篇創作〉」。佐伯一麦、町田康、西村賢太、円城塔の巨匠四人が短編創作に挑む。

・創作にはリービ英雄「西の蔵の声」。越境する作家の描く世界に注目である。

・安藤礼二、中島岳志、若松英輔が、日本の誇る宗教家・鈴木大拙の世界観に迫る特別鼎談「大拙、その可能性と不可能性」。

・富岡幸一郎と佐藤優の連続対談「『危機の時代』を読み解く Ⅲ 国家の本質」も注目である。国家とは何か、難しい問題に二人は答えを出すことができるのか。

・多和田葉子の新連載第二回「星に仄めかされて」。多和田葉子は今月も活躍している。

 

すばる 2019年2月号

・評論新人賞すばるクリティークの受賞作が発表され、赤井浩太「日本語ラップ feat. 平岡正明」が受賞となった。大澤信亮、杉田俊介、浜崎洋介、中島岳志による座談会も収録している。

・小説は綿矢りさの「生のみ生のままで」(前編)と、小佐野彈の「車軸」

・中沢新一がポケモンGO と歩行者の関係を考察する評論「ポケモンGO あるいは良き歩行者の夢想」

・青山七恵「私の家」と菅野昭正「小説と映画の世紀」が今号で最終回を迎えた。

・他、連載に谷崎由衣、山城むつみ、中村佑子など。

・すばる海外作家シリーズ41は藤井光の訳・解説によるユウコ・サカタ「こちら側で」。仕事から帰ってきたトオルを待ち受けていたのは、中学時代の同級生で、男性から女性になった「マサキ」だった……。

 

文藝2019年春季号

・トップに陣取ったのは彩瀬まる「森があふれる」(218枚)。日に日に樹木と化していく奇病に罹った妻を、夫の作家はつぶさに観察し物語にしていく問題作である。

・桜井鈴茂「喪服を着て」(156枚)は、友人の葬式の帰りに、東京に戻るはずが新潟に向かっていたことから始まる、青春の終わりと人生の始まりを描く小説。

・そのほか、中山咲「宝くじ」、岸川真「ススト」、川﨑大助「死は冷たいラザーニャ」。

・池澤夏樹と角田光代の特別対談「千年の時を超えた『物語る』力」では、角田光代が新訳し池澤夏樹個人編集の日本文学全集に掲載された「源氏物語」を巡る、千年の時を超えた対話が行われる。

・高橋源一郎「一億三千万人のための『論語』教室」、植本一子「24時間365日 二〇一八年十月二日~十月八日」、湯川豊「大岡昇平論 『昭和末』をめぐって」の三作が連載終了となる。

・エッセイに田村文の「極私的平成文学遍歴――ベスト29付」。田村文が見て来た平成の文学とはどのような光景だっただろうか。

 

以上、2019年2月発売の5誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。