チームBふくだりょうこさんの「リサイクルキッズ(仮)」の作業について詳細を述べるのだが、当然内容にも触れるため、先に読んでおいていただけねばならない。お手数で恐縮ではあるが、購入して読んでおく必要がある。よろしくお願いいたす。
以降ネタバレで苦情を述べられても、一切の責任は取りかねるし、そもそも「リサイクルキッズ」を読まないままで、このレポートを読み進める人もおられないだろうと思われるので、この制約はとくに問題がないと思われる。
ふくだりょうこ「リサイクルキッズ」はこちらからお求めください。→BCCKS
お代は¥216(税込)だ。クレジットカードの他にLINEペイにも対応している。LINEペイのプリペイドカードならコンビニで手に入るから、奥さんに厳しい小遣い制限をかけられている方でも安心だ。お急ぎください。
お求めはBCCKSがオススメで、専用ビューアよりも「生のEPUB」をダウンロードしてからiBooksなどのお好きなビューアで読むのが良いと思う。多くの電書ストアは貸本棚方式であるので、サービス終了と共に手が出せなくなる(Kindleも同様だ)ものであるが、EPUBデータを手元に残せる非常に良心的なBCCKSのシステムであれば、その心配はない。自分のコレクションを自分のパソコンやストレージに溜め込むことができるのである。ちなみに手元のHDDがクラッシュしたとしても、BCCKSのアカウントさえわかっていれば再度ダウンロードすることもできるわけなので、安心である。
さて、そろそろ「リサイクルキッズ」を読み終えた頃だろうと思う。「リサイクルキッズ(仮)」の話に戻ろうか。
基本のデザインはOKが出たので、あとは細かなところを調整すればいいのだが、ここからは試行錯誤だ。
美大なり専門学校でも出ていればクライアントを黙らせるオーラが醸し出せるのかもしれないのだが、残念ながら私は叩き上げの自己流の野良犬である。世間様で流通しているものをよく見て、結果論を蓄積して逆算する以外にデザインの良し悪しを考える基礎知識がない。
あとは自分の感覚を信ずるのみだ。つまり、デザイナーとしてのぼくの仕事を、編集者としてのぼくが見て判定を下す。これを高周波なサイクルで内部的にぶんぶん回せば、なんとか形にはできるだろうということだ。
その内部予選会を勝ち抜いた王者のみを、野崎チーフ、ならびに作者にお見せする。適当なところで探りを入れたり、複数案出して選ばせるような余裕はない。一発勝負で、ダメだったら切腹も辞さないところまで自分で自分を追い詰めるぐらいに考えていないと、プロデザイナーが続々と集結したこの戦場で生き残ることはできないのである。
これは自分の本の表紙を作るのより、何倍もプレッシャーがかかる状況である。
絵描き系の参加デザイナーなら、物語にジャストフィットしたイラストや絵画を生み出して、ベストマッチに持ち込める。作者も安心して執筆できるだろう。
本職系の参加デザイナーであっても、その経験値が作者に安心感を与えてくれるだろう。編集者とのやり取りも慣れているわけだから、相当に高度なデザインワークを繰り出してくるに違いない。
しかし、他のチームの様子はよくわからない。うしろからこっそりのぞき込むこともできなくはないが、流石に嫌がられるだろうし、チラッと見たところでそれが何か瞬時に判断するような眼力は持ち合わせていない。実際、ライバルの作品をすべて見ることができたのは本になってからのことだ。
製作段階ではお互いの状況を確認するような余裕はまるでなかった。深夜になってから少しヒマつぶしが必要になり、一部の途中工程を見られた程度だ。
そういう状況であるので、ぼくはぼくの作る書影について、作者と編集者に説明ができるものでなければならない。
つまり、これがなぜこのようなデザインになっているのか、どこを指摘されても説明ができるよう仕上げておく必要があるということだ。
無意識で適当に「いい感じ」に作ることはできないのだから、すべて理屈の積み重ねで構築していかねばならぬ。
ひとまず採用の決まったメインビジュアルを購入する。
普段から使っている「123rf」は1枚100円程度のチケットを数枚使って支払うことができる。月定額のプランもあるが、そこまでのニーズがぼくにはないので、単発で買えるチケットの方を利用している。
画像のサイズや種類で必要なチケットが変わるが、WEBや電子書籍で使うのであれば、4枚か5枚も積めば事足りる。
しかし、今回は色変更や多少の加工も必要になるので、EPS形式での購入とした。チケットは10枚だ。つまり1000円ほどでイラスト代は済んだということだ。5万部以上売れるようだと別契約が必要になるが、電子書籍でそれはまず考えにくいので基本の契約で問題ない。
使用料を払ってしまえば、イラスト自体を販売するのでなければ、奥付などに指定のクレジットを入れておくだけでいい。
まずはラフどおりにざっと配置する。背景にメインビジュアルをキレイに配置しみるが、なんだかパッとしない。
規則正しく並びすぎると視界から消えてしまうのだろうか。ラフのときはあまりそういう見え方ではなかったのだが、どうしたものだろう。
上側に乗っているタイトルとのバランスの問題だろうか。
少しだけ配置をずらして、配列のピッチを変えてみた。タイトルの上側は少しだけ密度を高く。逆に下側は微妙に間隔を開けた。
ああ、気持ち悪い。むずむずする。だが、動きが出た。バランスの狂いが、背景化しがちだったメインビジュアルに動きを与えてくれたようだ。つまりこれは静止している壁紙ではなく、全体がゾワゾワと動くものの1フレームを表現したものだということだ。試しにやってみたら思ったより効果があった。これでいこう。
さて、カラーリングだ。こればっかりは専門知識がないと上手くさばけない。いつものカラーパレットではマンネリがひどい(あくまで自分的にだが)。
素人がいくらこねくり回したところで、経験も知識も豊富なプロには敵わない。そこで、この部分に関しては世界中のプロのセンスを拝借することにした。いつものパターンだ。
http://colorhunt.co/
いい感じに調整してくれたカラーセットを教えてくれるサイトである。
あとは、作者の好き嫌いでいい。ふくださんは昨年の「低体温症ガール」の書影をたいへん気に入ってる。今回もパステル調がいいなという希望も聞いていた。いくつか候補を絞ってからと思ったが、せっかく目の前にいるのだし、直接選んでもらえば話が早いではないか。それで作ってみて気に入らなければ、またやり直せばいい。ドローデータだから色替えだけなら非常に簡単なのだ。仮に続編があったとしても無限にカラーバリエーションが作れる。
ふくさだんに手を止めてもらって、ディスプレイが見える位置に来てもらった。好きな配色があれば言ってくださいと伝えて、スクロールしはじめたところで、すぐに「これがいい」と指定してくれた。
パステル系ではない。
意外に思ったが、今まさに作品を描いているリアルタイムの彼女がピンと来た配色だ。なるほど、これは聞いてよかった。
もしあらかじめぼくがパステル系にこだわってピックアップして選ばせていたら、このチョイスは生まれなかった。
指定されたカラーリングで全体を整える。帯もセットする。文字は仮のものだ。夕方になればキャッチコピーやリード文も書いてもらえるだろう。それを当てはめれば完成となる。
この時点でiPad miniに送り込み、2人に見てもらう。「かわいい!」という感想が飛び出す。狙い通りだ。
「かわいい」表紙をこの「ダークサスペンス」に被せる。それがぼくのデザイナーとしての戦略だった。
乙女感のある文体と、受け入れがたいバッドエンド。
「ギャップ」=「落差」。それこそがこの作品のコアであり、野崎チーフと作家ふくだりょうこがこのノベルジャムに仕掛ける爆弾だ。
おそらく会場の多くの作者が狙うのは、大団円。ハッピーエンドの、無難な読後感である。
審査員も人間である。読んで気持ちが良いほうが評価が高いにきまっている。
しかし、それは埋もれやすい。甘いスイーツまがりでは舌も鈍ってくる。そこにピリッと辛い山椒をいきなり口に放り込まれたら……。
勇気は必要だが、これはもしかするともしかするかもしれない。もしか。
そこで昨夜仮タイトルで少し仕込みをした。
「リサイクル」と「キッズ」。PTAの活動にはリサイクルは多く関わってくるから、この2つの単語は脳の中で近い場所にあるようで、でも、直接つなげると違和感がすごい。ここでギャップを作ることができる。まあ準備運動のようなものだ。読者が最初に接するのがタイトルだから、ここにひと仕掛け必要だろうと思ったわけだ。
そこに内容とギャップのある表紙をぶつける。これが助走の第2段階だ。ここまでお膳立てして、「そんな結末予想してなかった!酷い」という人がいたら、それはちょっと油断がすぎると思う。
若干のネタバレ感はもちろん気になるが、多少匂わせておくものもまた演出として必要なのではないかと思うのだ。
ふくださんからは、タイトルもこれで行きましょうと、仮タイトルを採用してもらえた。ただ、表記は英語の方でということになった。少しオブラートに包めるのでいいと思う。
さて、ではこちらは一段落だ。というところで、天王丸景虎から返事がきた。
「このいらすとやさんの案で行きたいと思う」
祝・採用!
つづく
"#noveljamに限らずデザイナーの仕事の九割は調整であり、それ以外の部分はいずれAIにシンギュラれてしまうだろう"へのコメント 0件