1973年に世を去ったチリの国民的詩人パブロ・ネルーダの死因が、毒殺である可能性が高まった。国内外の専門家による調査委員会が先ごろ発表したもので、これまで死因とされてきた前立腺癌だけでは説明できない毒素がネルーダの歯から見つかったという。以前よりネルーダの死については、当時のピノチェト政権による暗殺だとの説も根強かった。

ノーベル文学賞を受賞するなど世界的に高い評価を得ていたネルーダは、チリ国内では政治家や外交官としての顔をもっていたことでも知られる。1940~70年代のチリでは民主主義→社会主義→軍事政権と政治体制が変遷しており、共産党員だったネルーダの立場も国内情勢に大きく翻弄された。逃亡を余儀なくされた時期もあれば大統領候補になった時期もあるなど、激動の政治人生だったといえる。

1970年に社会主義政権が成立してからはとくに重用されていたが、1973年に軍部によるクーデターが起こると状況は一変。政権に近かったネルーダも標的とされ、家を徹底的に破壊され蔵書もことごとく破り捨てられるという被害に遭う。ネルーダが死んだのは、それからわずか12日後のことだった。その時点でネルーダが癌を患っていたのは事実で、これまではクーデターのショックから病状が一気に悪化して死んだものだとされていた。

しかし一部の証言では、クーデター後もネルーダの健康状態に問題はなく、メキシコに亡命する算段がついていたともされる。ノーベル賞詩人の発言力を危惧した軍部に口を封じられたのではないかという説もまことしやかに囁かれており、2011年からは遺体を掘り起こしての調査が繰り返されていた。

奇しくも日本では、ちょうどネルーダを題材とした映画が順次公開されているタイミングでのニュースとなった。これを機に映画や彼の作品に触れてみるのもよいかもしれない。