かつて愛媛県松山市に存在した夏目漱石の下宿「愚陀佛庵」が、2018年以降に再建される見通しであることがわかった。跡地の現所有者が計画を明らかにしたもので、松山市も協力する姿勢を見せているという。愚陀佛庵は太平洋戦争で焼失したのち1982年に市内の別の地で復元されていたが、そちらも2010年の豪雨による土砂崩れで全壊していた。

漱石が愚陀佛庵に住んでいたのは、英語教師として愛媛県尋常中学校(現・県立松山東高校)で教鞭を執っていた1895年6月から翌年3月までのわずか10か月ほどに過ぎない。しかしこの期間の経験が代表作『坊っちゃん』を生んだことや、松山出身で帝大時代の友人でもあった正岡子規が居候した時期もあることなどから、市ゆかりの2人の文豪の聖地として県内外に広く知られてきた。戦後に復元されてからは観光名所としても人気だった。

2010年の倒壊後も、集客が期待できるとあって市内各地が再建の誘致合戦を繰り広げたという。「文学のまち」を標榜する松山市もこれを看過できず具体的に検討を重ねたが、コストや地盤の問題からなかなか適した土地が見つからず、2013年には実質的な棚上げ状態となっていた。それが今になって再び動き出したのは、愚陀佛庵が最初に建っていた土地の所有者が名乗りを挙げたためだ。

跡地の現所有者は不動産会社「濱商」で、今はコインパーキングとなっている。同社の濱本社長は、観光客がそのコインパーキングを撮影している姿を何度か見たことから「愚陀佛庵の土地を持っている責任がある」「愛媛のために再建したい」と考え、市に再建を打診したとのことだ。

愚陀佛庵は文学的に重要な史跡だけに、建物を復元するだけでも意義深いことではあるのだが、それが本来の土地であるならばこれ以上望ましいことはない。ほかの候補地も文句は言えないだろう。計画が本格化するのは2018年度以降となるが、自治体・市民・ファンのいずれもが納得できる形での再建に期待したい。