オックスフォード大学ボドリアン図書館は、同館で保管しているインドの書物「バクシャーリー写本」の制作時期を特定したと発表した。放射性炭素年代測定の結果によれば、3~4世紀ごろに書かれたものだという。写本には数字「0」のプロトタイプとされる黒い点が記載されており、従来最古だと考えられていた「0」より500年も古いことになる。

バクシャーリー写本は、現在のパキスタン北部にあたるバクシャーリー村で発掘された約70枚から成る巻物だ。1881年に地元の農夫がたまたま見つけたもので、古代インドの算術や代数についての解説と例題がサンスクリット語で記されている。今でいう教科書や参考書の類だと考えられるだろう。数学史研究においては、インド数学が発展していく過程を知ることのできる貴重な資料として知られている。

一方で、その正確な成立年代に関しては諸説紛々だった。数字「0」の誕生はしばしば人類史上でもトップクラスの大発明だといわれるが、従来最古の「0」だとされていたのはインドの寺院に残る9世紀の碑銘だ。今回ボドリアン図書館が写本の制作時期を特定したことで、最古の「0」の座が移り変わったことになる。

「0」の発明によって人類にもたらされた数学的な恩恵は数えきれないほどあるが、 文字や言葉の歴史からみても、これはきわめて重要な発見だといえるだろう。漢数字で「二〇一七年」と表記されることにあなたがなんの違和感もないとしたら、それはまさしく「0」のおかげだ。「100000000000000000000…」というような数字を読み方もわからずに書いたことがあるとしたら、それも「0」のおかげにほかならない。

せっかく今回のようなニュースが出たので、たまには「0」に思いを馳せながら暮らしてみるのもいかがだろうか。もちろん筆者はこの文章を、糖類0%のチューハイを飲みながら書いている。