2017年10月17日、本年度のブッカー賞受賞作が発表された。最終候補5作のなかから選ばれたのはジョージ・ソーンダーズの「Lincoln in the Bardo」で、昨年のポール・ビーティーにつづき2年連続でアメリカ人作家の受賞となった。

権威ある文学賞として世界的に知られるブッカー賞は、長篇小説を対象とした文学賞だ。1969年の創設以来、長いあいだイギリス人とアイルランド人のみに受賞資格が与えられてきたが、2014年からは「英語で書かれている」「イギリス国内で出版されている」という2点を満たせば国籍不問となった。

今回受賞したソーンダーズは20年以上のキャリアをもつベストセラー作家だが、一般的には短篇の名手としてお馴染みだろう。なんと長篇は本作「Lincoln in the Bardo」が初だという。長篇と短篇はまったくの別物だと発言する作家も世の中には数多くいるなか、初長篇でいきなりブッカー賞を受賞してしまうあたりはさすがの実力である。

受賞作「Lincoln in the Bardo」は史実を基にしたフィクションとなっている。タイトルにあるLincolnというのは第16代アメリカ大統領エイブラハム・リンカーンのこと……ではなく、その三男ウィリーのことだ。ウィリーは11歳の若さで病死しており、大統領は暇を見つけては足繁く墓前に通い詰めていたという。そんな様子を見守る墓地の幽霊たちのやりとりを中心に、現実世界での南北戦争の模様も巧みに織り交ぜながら生と死とをめぐる物語が進んでいく。

筋書きだけを見るとファンタジックな話に思えるかもしれないが、実際の作中には引用だけで構成された章があったり幽霊の台詞のみで構成された章があったりと、実験的な部分も見られる。まだ日本語訳の情報は出ていないが、翻訳者にとってはやり甲斐のある仕事となりそうだ。