京都の老舗出版社・平楽寺書店の社屋が老朽化のため解体されることがわかった。築90年になる同社屋は国の有形文化財に指定されていたが、改修費用を賄うことが困難だったことから解体が決まったものだという。

京都市中京区にある平楽寺書店は、江戸時代の慶長年間(1596~1615)に創業した仏教書中心の出版社だ。もともとは浄土宗関連の書物を取り扱っていたが、店主の改宗に伴い法華宗、日蓮宗と扱う内容が変遷していき、現在では「出版物による仏教理念の啓蒙と普及」を掲げながら事業を継続している。

現在の社屋が建設されたのは1927年のことだった。店舗前面をトスカーナ様式の本格的な洋風建築としつつ裏手は木造の町家になっているという和洋折衷が特徴で、近代の京都文化を現在に語り継ぐ貴重な建築物として独特な存在感を放ちつづけていた。1998年には国指定の有形文化財に登録されている。

しかし近年は老朽化が進み、耐震性が問題視されるようになっていた。所有者は改修も検討したそうだが、有形文化財の修繕において補助が出るのは設計管理費のみで、工事費に関しては自己負担が原則だ。費用を捻出することはむずかしく、断腸の思いで解体・建て替えを決定したという。新しい建物にも現在の意匠をなるべく残す方向だというが、マンションを併設することが決まっており、やはり現在の趣は損なわれてしまうのだろう。

はめにゅーでは先日、解体直前だった太宰治の旧居が急転直下そのまま移築された件について触れたが、そうした奇蹟はそうやすやすと起こるものではない。90年間の歴史の重みを感じ取りたい人は、ぜひ解体前にその目に焼き付けておこう。