2017年4月18日(火)、第36回新田次郎文学賞の受賞作が発表された。受賞したのはキュレーター、カルチャーライターとしても知られる原田マハの『リーチ先生』だった。授賞式は5月31日、都内でおこなわれる予定となっている。

1982年に創設された新田次郎文学賞は、ノンフィクション文学または自然界を題材とした作品を対象とした文学賞だ。近年は評伝や紀行文、ルポルタージュなどの受賞が目立っており、ノンフィクション作家にとっての登竜門といえる。一方で厳密な意味での「ノンフィクション」にこだわってはおらず、過去の受賞作にはフィクション要素の強い時代小説も少なくない。ほかのノンフィクション文学賞とは一線を画した存在だといえる。

今回受賞した『リーチ先生』も、伝記寄りのフィクションだ。イギリスの陶芸家バーナード・リーチの生涯を綴った作品であり、実在の有名芸術家たちも次々と登場しているが、あくまでも物語はリーチの架空の弟子の視点から書かれている。しかし完全な創作というわけでもない。「事実をベースにして書く」「登場するアーティストを絶対におとしめない」(刊行時のインタビューより)というのが原田の基本スタンスであり、そこで起こるできごと自体はほとんどが実話なのだ。

原田自身はこの手法を「アート・フィクション」と自称しているが、フィクションともノンフィクションとも微妙に異なる手触りをもった作品の受賞は、実に新田次郎賞らしい選考結果といえるかもしれない。