マンガの神様・手塚治虫(1928年11月3日 – 1989年2月9日)と多彩なクリエイターたちがトリビュートするイベント「手塚治虫文化祭 ~キチムシ‘16~」が11月3日から9日まで、吉祥寺リベストギャラリー創にて行われる。会場ではそれぞれのクリエイターが思い入れのある手塚作品をモチーフに、オリジナルに創作したトリビュート作品やコラボレーション商品、イラストやその複製原画、ポストカード、Tシャツ、フィギュア、コミック冊子、その他雑貨などが展示・販売される。

今年は手塚治虫のデビュー70周年でもある。ビアトリクス・ポター、シェイクスピア、夏目漱石…人間が積み上げてきた文化とは、毎年を記念するためのものなのかもしれない。そろそろ来年の準備をしなければ。70年たってもまだまだ未発表原稿が発見される手塚治虫。その生涯に描いた原稿の枚数は15万枚にも及ぶとか。今年の9月に連載40周年を区切りとして終了した『こちら葛飾区亀有公園前派出所』が、全200巻で4万ページ弱だと言えばその凄さに驚愕するだろう。講談社刊の『手塚治虫漫画全集』だけでも全400巻、約8万ページなのだから正に神の所業と言うに相応しい。あるいは狂人と言うべきか。本展では、そんな神の啓示を受けた総勢21名のクリエイターが作品を手掛け、モンキー・パンチによる『リボンの騎士』サファイア、浅田弘幸による『鉄腕アトム』などが開催に先立って公開されている。

人類の課題図書、手塚治虫『火の鳥』。あなたは何編について語るだろうか。「黎明編」から「太陽編」まで順番通りに読むと、振り子のように過去と未来を行き来して、段々と現代に近づいていく構成になっている。それがまた順番を入れ変えて時系列順に読むと、最後の「未来編」が最初の「黎明編」に繋がるループ構成になっている。しかし結末になるはずの「現代編」は、最後まで構想だけで描かれなかった。手塚治虫にとって「現代」とは、全てが過去になり、未来がない。すなわち「死ぬ瞬間」だと定義しており、死ぬ直前に「現代編」を描くつもりだったが、それは叶わなかったのだ。神はそれを天上に持ち去ってしまった。生涯最後の作品をシューベルトの遺作になぞらえて「白鳥の歌」と呼ぶが、日本では「現代編」と呼ぶのが適当ではないか…と閃いたものの、そもそも定義が違うし伝わりにくそうだ。とりあえずはその時まで、現代に残された手塚治虫の作品をありがたく楽しむことにしよう。