受賞作である”The Sellout”はロサンジェルスを舞台にした小説。主人公はディケンズという郊外の町で父子家庭に育つのだが、社会学者である父が警官によって射殺されると困窮を極めることになる。やがて、幾つかの悪事に手を染めた結果、奴隷制の復活と学校教育での人種分離を掲げる地域の名士に助けを求め……というストーリーだ。アメリカの人種平等についてユーモラスかつ辛辣に描ききったことが評価されての受賞となった。

ポール・ビーティーは同作で全米批評家協会賞も受賞しており、現在四作目。英語圏の主要な文学賞を2つ受賞したことで、日本での知名度も徐々に高まるだろう。同作に登場する「警官による射殺」エピソードは、現在のアメリカを騒がせている社会問題でもあるので、話題性も十分。

ブッカー賞の米国人作家受賞ははじめてというのも意外だ。ブッカー賞は英国および旧植民地のみを対象にしており、2013年になってようやく英語圏に対象を拡大した。ブッカー国際賞ではフィリップ・ロスやリディア・デイヴィスなどの米国人作家が受賞している。『日の名残り』で受賞しているカズオ・イシグロは英国籍を持つイギリス人。

補足であるが、”The Sellout”のあらすじは筆者がLit Loversより大意を掴んだものなので、間違っている可能性もある。できれば、翻訳の登場を楽しみに待ちたい。