ディビジョン/ゼロ(9)

ディビジョン/ゼロ(第9話)

波野發作

小説

1,074文字

午後23時。都心へ向かうガラガラの列車。人の流れに逆らい、夜の街へ。

〈9〉

 

飛び乗った上り電車にはほとんど客がいなかったので、余裕で座れた。

この時間にこの方向の電車に乗ったことがない。

朝の逆方向ならある。空いていた。

 

通過するホームの向かい側は人の行列が続いていた。

ちょうど着いた電車に無理矢理押し乗っているのはおかしかった。

自分は選ばれた人間だから、悠々としていられるのだと思った。ぼくは自由だ。

 

駅で5万円キャッシングしてきた。そんなに高い店じゃないから、とりあえず足りないことはないだろう。

金があるなら指名してもよかったと思ったが、どうせする入れる子は限られているからと思い直した。

誰だってそんなに変わらない。わかってる。

 

念のため店のホームページを見た。相変わらずしょっぱいサイトだ。

ぼくならもう少しマシに作ってやるのに。

どうせギャラをケチって素人に作らせているんだろう。

 

出勤の子のリストを見るが、知っている名前の子はいなかった。

今日は3名出勤でそのうち2人が新人だ。

写真はどうせパネマジだろうが、だいたいの感じはつかめる。

 

今はキャンペーン中だそうだ。平日だからだろうか。

フリーキャンペーンと新人キャンペーンがあった。

新人キャンペーンの方がオフがでかい。じゃあこっちにした方がいいな。

 

乗り換えた駅は人でごった返していた。

酔っぱらった学生風の連中が大声ではしゃいでいる。

帰ると言ってる女を引き止めようとしているらしい。

 

女は本気で困っているようだが、どうせ連れていかれるだろう。

男たちはいいじゃんいいじゃんを連発していた。

電車がついたので、ぼくらヤツらをすり抜けて先に乗り込んだ。

 

車内は少し混んでいたが、すし詰めというほどではなかった。

とりあえず居場所を確保し、つり革をつかんで連中の様子を見たら。

いいじゃんを連呼して、電車内に女を引き込んだところだった。

 

ドアが閉まる瞬間に、女はホームに飛び降りた。

男どもはあっと大声を上げて、口々にマジかよを連発していた。

女はペロっと舌を出すと、バイバイと手を振った。電車は走り出した。

 

ちょおまえなにやってんだよ。しんじらんねえ。

ざけんな。うるせえ。くっそ。ざけんな。

ったく。ぱねえ。まじかよ。あーくそ。

 

獲物を逃したガキ共の肚の虫はなかなかおさまらないようだったが、次の駅を過ぎる頃にはすっかり反省会になっていた。

女のことはすっかり忘れたらしく、単位がどうの卒論がどうのという話に切り替わっていた。

ぼくの駅に着いたので、ぼくは電車を降りた。

2015年9月5日公開

作品集『ディビジョン/ゼロ』第9話 (全10話)

© 2015 波野發作

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