「夜の郵便配達」其の壱

消雲堂

小説

977文字

夜中にトイレに入っている際に「夜中に郵便配達が来たら怖いだろうなぁ」って、ふと思い浮かんじゃったのです。

 

深夜、尿意を催してゆっくりとベッドから起きあがった。はっきりと目覚めないように睡眠意識を制御し、寝ぼけたままの状態を維持しながら暗い部屋の中を歩いた。僕の場合、一度目覚めてしまうと再び睡眠に入るのが大変なのだ。

すると玄関のドアがカチャリと音をたてた。「気のせいか?」と思いながら、恐ろしい強盗や幽霊でも入ってきたらと考えたら恐怖心から永遠に眠れなくなっちゃうかもしれないと無視して便所に入ろうとした。すると玄関のドアの外から、低音の、しっかりと聞き取れる声で「夜分申し訳ありません、郵便です」と言った。

「え?」(こんな時間に郵便配達がくるわけがない、空耳だろうか?)

僕は例えようのない恐怖感に襲われて動けなくなってしまった。
「郵便です、夜分申し訳ありません」またドアの向こう側から声がした。目が覚めてしまった。(やはり新手の強盗かもしれない…)

恐怖心が増幅する。思わず台所の洗い場に歩いて放置したままになっている薄っぺらな刃の包丁を握りしめて、ドアスコープを静かに覗く。声の主は本当に郵便配達の格好をしていた。しかし目深に被った郵便配達の制帽にさえぎられて彼?の顔は見えない。

「どなたでしょうか?」

「はい、郵便配達です」

「こんな夜中に郵便配達しているわけがないでしょう。警察を呼びますよ」(せっかく熟睡していたのに目が覚めちまったじゃないか、ちくしょう…きっと犯罪者だ)

腹が立った。無意識に玄関のドアを足で蹴る。威嚇したのだ。しかし、相手が無秩序で無道徳な強盗に素人の威嚇の効果があるはずがない。

「あはは、心配しないでください、本当に郵便配達なんですよ」

「それじゃ、ポストに入れといてくださいよ、真夜中に驚くじゃないですか?」

「ところがあなたの受け取り署名が必要なんです。書留のようなものです」

(怪しい…やはり強盗だろうか? 絶対に開けるものか)

「それじゃあ申し訳ないけど今じゃなくて、明るくなってからまた来てください。夜中に郵便配達するなんて聞いたことがないし、普通の人なら夜中に玄関のドアを開けて向かい入れたりしないでしょう?」

「はい、ご不審もごもっともです。でも僕の担当が深夜なんです。だから昼にはお届けできないんです」

「そんな馬鹿な郵便があるはずがない、夜中に限定した郵便って何なんですか?」

「あなたの大切な人からのお手紙なんですよ…」

2015年2月10日公開

© 2015 消雲堂

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