「時をかける男」

消雲堂

小説

1,602文字

時をかける超能力者たちの戦い

僕は超能力があるんです。どんな超能力ですって? あなた、その口ぶりでは信じていませんね。はは、面白いですか? 嘘をつくなって? わかりました、僕には時間が見えるんですよ。あ、笑いましたね、別におかしいことじゃないでしょう? 時間が見えるとはどういうことかって? それじゃご説明いたしましょう。

激しく流れる川のように時間は限りなく動いていて止まることがありませんが、その流れが僕には見るんです。

どう見えるのかって? そうですね…人間の背後に流れている時間の軌跡が見えるんですが、それは半透明の長い帯のようです。その帯をよく見ると、もの凄く細かなコマドリ写真のように軌跡が残っているんですよ。あなたの背中に連なっている過去の軌跡も見えるんですよ。

あなた、お昼に三丁目の伊勢薮でお蕎麦をお召し上がりになったでしょう? 会社の女性の方も一緒ですね。あなたがお勤めの会社の方ですね。あなた、いけませんよ、まっ昼間から会社の女性を口説いちゃいけませんよ。奥さんに叱られますよ。ふふふ…失礼、冗談ですよ、怒らないでくださいな。それに昨夜、奥さんと喧嘩して居間のソファーで寝ましたね、風邪引いちゃいますよ。

驚かないぞって? 俺をずっと見張っていたんだろうって? 昨夜の奥さんとの喧嘩も家に盗聴器をしかけてたんだろうって? なるほど、それはいい方法ですね。でも、困ったな…。そんなインチキじゃないんですよ。

うーん、例えば殺人事件が起こったとします、僕がその被害者の亡骸を見れば、時間の軌跡を追って犯人を特定できるんですよ。犯人がわかるだけじゃなくて、被害者と犯人の関係も見えますから殺人動機だってわかるんですよ。それだけではありませんよ。彼らの生い立ちから事件発生までの人生が見えちゃうんです。

死んだ人だって軌跡は残ってるんです。人は死んでも時間の軌跡は残ったままなんですよ。たとえ亡骸が火葬されて現世から消滅したとしても時間軌跡は残ったままなんです。だからそこら中に人の軌跡が残っているので僕のように、それが見える人間は気持ちが悪くって仕方がないのです。

え、それじゃあなたの未来がどうなるか教えろって? 唐突ですね、うーん…残念ながら未来だけは見ることができないんです。ほらやっぱり嘘だろうって? まあ、聞いてくださいな。僕は現在を生きているんです、未来人じゃないんですから未来が見えないのは当然じゃないですか。言い訳じゃありませんよ、僕は人の過去だけを見ることができるんですよ。

でもね、それが自分でも気になるところなんですよ。人の未来を見ることができないんですが自分の未来だって見えないんです。その点では実に中途半端な超能力ですよね。何だか自分でも嫌になってきましたよ。落ち込むなよって?ありがとうございます。あなたは優しい方ですね。

え、あなたは、未来を見ることができるんですか、本当ですか? あれ? 超能力者である僕自身も超能力者を疑っちゃいましたね。ダメだなぁ。

それでは僕の未来がどうなるのか教えてくださいよ。お願いします。あ、教えていただけるんですね、ありがとうございます。楽しみだなぁ。でも、自分が死ぬのがわかるっていうのが怖いですね。どうしようかな? え、もう遅いですって? はは、じゃお願いします…あ、大きなナイフですね。それで未来を見るんですか? 何かワクワクしますね。あ、うっ…いきなり、な、な何をするんですか?痛い…うううう…刺すなんて、ひ、酷いじゃ…。

ふふふ…死んだか…。ざまあみろ、お前は嘘つきだ。俺は蕎麦屋になんか行ってないし、妻もいないんだぞ。デタラメばかり言いやがって。俺の過去が見えるのなら俺が凶悪な殺人鬼であることがすぐにわかったはずだ。お前にはそれが分からなかった。それこそ、お前が嘘をついている証拠さ。俺だって未来が見えるなんて嘘さ。でもね、お前より俺の方がましだよ、だって、お前が死ぬ未来がわかっていたんだからな。

2015年5月9日公開

© 2015 消雲堂

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