ブレイクコア、或いはさなぎ

峰雲

小説

634文字

きっと、あなたの時間を一分も奪いはしない掌編小説。あなたの何かが変わることを作者は願う。

ヘッドフォンの中で、ブレイクコアが狂乱する。

ブレイクコアは音楽の音楽でない、ノイズにも似た、歪なミュージックだ。既存の音楽をばらばらに切り刻んで、組み換える。骨子はそういうことだ。

同じフレーズが千々になり、或いは繰り返され、圧縮されて、限りなく永遠に近い所まで引き伸ばされる。

それは、ぼくに戦争を連想させる。

血と肉が、ハーモニーとリズムが、ごちゃ混ぜに一つの器で掻き回されているような感覚。サラダボウルの中の野菜を、くしゃくしゃと揉むのに似ているかもしれない。

しゅぽん、と間抜けな音がする。迫撃砲かグレネードランチャーの発射音だ。砲弾が炸裂する音までは聞こえない。戦争が全て、こんな風にのんきなら、とつい思ってしまう。

続いて、16ビートのドラム音、いや、マシンガンの連射。コンクリートの壁にポコポコと穴があく。それは機銃掃射の蹂躙だ。

勿論、ぼくの身体にも穴があく。ワイン色の液体が、とぽとぽ溢れて、ぼくの内臓は7.62mmの弾丸に撹拌されて、ぐちゃぐちゃだ。小指にも満たない大きさの弾頭に、体内を破壊されることを考えるのは、ひどく楽しい。さなぎの中の芋虫が、一度溶けて、どろどろになるように、ぼくも銃弾を受けて、どろどろになる。

細胞が生まれ変わるように、一秒前のぼくが、もう既に今のぼくでない。六年後には全ての細胞が新しくなって、やっぱり今のぼくでなくなった時、ヘッドフォンの中の音楽はまだ、ブレイクコアだろうか。

そして今、音楽が止み、次のぼくが生まれる。

 

2016年5月7日公開

© 2016 峰雲

読み終えたらレビューしてください

この作品のタグ

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

"ブレイクコア、或いはさなぎ"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る