ノーベル賞受賞も目された遠藤周作であるが、これまで彼のデビュー作は『アデンまで』(昭和29年11月)とされていた。しかし、このたび、『アフリカの体臭-魔窟にいたコリンヌ・リュシェール』(伊達龍一郎著)が遠藤周作が別名義で書いたものであり、事実上のデビュー作であると断定された。30年間師弟として親しく交わった加藤宗哉さん(『三田文学』編集長)が調査し上記事実を確定し、親族に確認をとり認定された、という経緯だ。

同作品は昭和29年8月号の『オール読物』に収録された原稿用紙で約20枚の短編であり、実在したフランスの女優コリンヌ・リュシェールをモチーフにした小説である。遠藤周作は後年「(コリンヌ・リュシェールは)われわれの青春時代の象徴である」と言及している。また、遠藤が留学で渡仏した1950年という年は、コリンヌが28歳の若さで亡くなった年である。帰国した翌年の1954年、留学の記憶や夭逝した女優の面影を引きずってこの作品を書き上げたというならそれは頷けるものだ。産経新聞の記事によると「(当作品は)戦後若くして病死したフランスの女優コリンヌ・リュシェールが実はアフリカのジブチで売春をしながら生きているという話を聞いた男たちが、彼女を探し求める過程で目にする衝撃の光景を描く。」という復活譚めいた内容らしい。

カトリック作家、如何ともしがたい深い業について語る作家、ユーモアエピソードの尽きない作家、様々な面を持つこの多面的な作家については、読者によって様々な印象を持っていることだろう。それぞれの目で「遠藤周作デビュー作認定作業」を試みるのは楽しいことに違いない。『アフリカの体臭-魔窟にいたコリンヌ・リュシェール』の収録された『遠藤周作『沈黙』をめぐる短篇集』(慶応義塾大学出版会)の刊行(6月15日)を待ちたい。