眠たくなるほど長い詩

高橋文樹

585文字

フランスは辞書の国だ そこには芸術の定義が載っている

少なくとも文学は芸術ではない 音楽も 映画も 絵も 建築も 踊りも 彫刻も みんな芸術なのに

文学は芸術ではない

詩だけがただひとつの例外だ

 

そうだ 詩こそが文学なのだ

詩だけが例外なのだ

形式を持っている 最初から最後まで覚えていることができる 書かれるのではなく詠まれる

それらすべてが詩を芸術たらしめているのだ

オードが ソネットが バラッドが

詩なのだ

 

僕もまた詩を書こう

その詩を聞いている人の瞼が

ゆっくりと重たくなって

自ずと帳をおろしてしまうほどの長い詩を

 

世界の歴史についてや 神の創造について

酔っ払った船や 映画を撮る若者たち なりやまない太鼓 外人部隊の訓練の様子なんかどうだろう

母音や懐かしい色についての詩なんか 気が利いている

とにかくそんなことについて 恐ろしく長い詩を書こう

 

僕の詩を聞いた人は

なんだか眠たくなってくる

ああこれが芸術か なんて眠たいんだ でも我慢して聞かなければ

そんなことを思う

必死に眠気を振り払っても ねっとりと瞼が重くなってくる ついに緞帳が降りてきて 観客席は暗転する

見る者が劇を終わらせる

 

重たげな赤い緞帳の中は暗く もう拍手は聞こえない

舞台の照明が落とされ 緞帳を赤く透けさせる観客席のライトだけが見える

向こうではきっと誰かが眠りについている

 

僕はそういう長い詩を書こうと思う

2016年2月10日公開

© 2016 高橋文樹

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