フェイタル・コネクション(5)

フェイタル・コネクション(第5話)

高橋文樹

小説

5,542文字

花藤の働く会社の社長との飲み会で泥酔したタカハシは、目ざめると見知らぬホテルのスイートルームに寝ていた。記憶も定かでないまま、ホテルの部屋を眺めると床に座り込んだカントがワインを舐めている。どうしようもなさが高級ホテルの床で弾ける。BOTS小説の傑作、ここに完結。

それから、タカハシは目を覚ました。広い洋間にいて、ベッドの上だった。横にはバスローブを着た山田がしくしくと泣いていた。記憶が前後していた。

山田に聞くと、タカハシはあのあと、グラッパという臭い酒が気に入って、何杯も続けて飲んだらしかった。アルコール五十度の強い酒だったから、そのまま意識を失った。三人は寝れそうなベッドの脇を見ると、ゴミ袋にゲロが入っていた。

「俺吐いたの?」

「死んじゃうかと思った」

山田はそういうと、再びわっと泣き出した。よく覚えていないが、悪いことをしたらしい。意識を失うまでは丸毛のいる会社で働くかどうかの話をしていたはずだが、その結論がどうなったのかはわからなかった。

「ところで、この部屋なに? 凄い広いんだけど」

山田に聞くと、スイートルーム、という答えが返ってきた。頭の中に、五桁以上の数字が持つごりっとした感触が甦る。こういうホテルのスイートルームは、二〇万ほどするはずだった。

「金は? 俺、もしかしてカード使った?」

「社長が払ってくれたよ。入社祝いって言ってた」

タカハシは顎に手をやった。もしかしたら、丸毛に一服盛られたのかもしれなかった。が、タカハシの疑いはいつも長く続かなかった。まあいいや、となるのだ。

「ところでカントくんは? 先帰った?」

「いるよ。向こうに」

身体を重たく感じながら、リビングに行くと、カントが床に座っていた。身体が沈むほどのソファがあるというのに、床に座り込んでワインを飲んでいた。

「ああ、タカハシくん、悪い、飲んじゃったよ。冷蔵庫のこれ、下手に開けたら、五千円とか書いてあった」

カントは机の上においてあったメニューを渡して見せた。タカハシはそれを五秒ほど眺めると、すぐに尋ねた。

「昨日さ、なにがあったの? 俺、全然記憶ないんだけど」

「ある意味、男だったよ。ボンゾみたいに死ぬかと思ったけどさ」

「誰それ」

「ツェッペリンのドラムだよ。ある意味、スイートルームで寝ゲロして死亡ってのは、最高にロックだからね」

「ホントにここスイートなの?」

「そうだよ。あの社長がカード切ってたけど、十六万だってさ」

「そう……。山田、コーヒー入れてくんない」

タカハシはソファに腰をかけた。すると、それまで床に座っていたカントが向かいのソファに座った。北千住の四〇一号室にいるような既視感に、タカハシはくすりと笑いを漏らした。

2015年9月14日公開

作品集『フェイタル・コネクション』最終話 (全5話)

フェイタル・コネクション

フェイタル・コネクションは1話まで無料で読むことができます。 続きはAmazonでご利用ください。

Amazonへ行く
© 2015 高橋文樹

読み終えたらレビューしてください

この作品のタグ

著者

この作者の他の作品

この作者の人気作

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


3.5 (2件の評価)

破滅チャートとは

"フェイタル・コネクション(5)"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る