幻想

GLASS

1,854文字

主人公は、何かを持って森に入る。ただ、目的を遂行するために……

僕は、森の中に一歩、足を踏み入れた。

足元は湿っぽくて、ガサッと少し靴が入り込んだ気がした。

瞬間、上を見上げると、木と木の間にうっすらと太陽の光が差し込んでる。

平凡な一日に僕は、退屈していた。

だから僕は、足を踏み入れた。

ゆっくりと足を進めていった。

目的なんてない。

これは挑戦なんだ。

生きるか死ぬかの賭け。

そう。

そうなんだ。

木の上を、鳥が飛んでるのが分かった。

あの鳥達は、何を喜び、何を悲しむことが出来るのだろう。

僕の喜びは、誰に伝えればいいのだろう。

鳥がいなくなるのを待って、僕は目線を戻した。

ああ、明日は、何故、僕の未来を奪ってゆくのだろう。

未来しかない僕は、なんて不自由なんだろう。

一度でいいから、誰かを殺してみたい。

本気でそう思った自分に、お前は間違ってない、と言い聞かした。

気がつくと、もうずいぶん入ってきていた。

入り口は、遠くに小さくしか見えない。

僕は、覚悟を決めた。

もう、人を愛さないんだ。

もう、涙はこぼさないんだ。

×――「…………」――×

いくつか、もう出来ないことを考えてみた。

でも、まったく悲しくもなかった。

すべていらないものだからだ。

僕の心は澄んでいた。

それを森が迎えてくれてるみたいで、自分の正当性を感じた。

でも、胸の中はうらうらとしていた。

自分の気持ちを伝える相手を探してた。

その上、太陽はいいなと思った。

僕の心を乱すことはない。

この光は、僕は好きだと思った。

多分、あともう少ししたらこの光も消えるだろう。

その時僕は、光を失った僕は、寄り添うものを失くしなすすべを失うだろう。

でも、それも楽しみ。

それを含めた上での試しみなんだ。

これは。

でも、僕は何故、こんなことをしたのだろうか。

決して、死のうなんて思った訳じゃない。

逆に、生きたいという気持ちをとても感じた。

でもしてることは、逆の結果を招く行動……

結果なんてどうでもいい……

そう思った。

結果を恐れてては、答えなんて見つからない。

見つかる訳がない。

だって、答えなんて元々ないんだから。

それは知ってる。

とうの昔に気付いたことだ。

涙が枯れた時に、気付いたんだ。

そして僕は変わった。

一人の人間を純粋に愛そうと決めた。

今、それが出来てるか!

出来てる。

そう思う。

だからそのために、それを証明するためにここにこうして来たんだ。

結果というどうでもいいものを、完全否定するために。

命をなげうってまで、人を愛すことをただ遂行するんだ。

僕のために。

僕自身のため。

やるんだ。

少し、周りが暗くなってきた。

とうとう来たか。

僕は思った。

この時を待ってた。

心のどこかで恐れてもいた。

でも、ふっきれていた。

始まりだと思った。

何の、かは分からない。

命の始まり。

しっとの始まり。

すべての始まりには嘘がある。

美しい、立体的な、幻色的な、その「嘘」は物語性がある。

人の心を掴んで離さない。

それ程の完全な嘘だった。

僕はその嘘に騙された。

だからここにいる。

こうして生命を受けてる。

限りあるものだから。

命あるものだから。

少しでも、清らかでいたいと思うもの。

僕は、そこには誇りを持っていた。

それだけは譲りたくない。

そう心に思っていた。

僕は今、断崖絶壁の岩壁の上に立っているような状態だ。

でも心は静かで、心地良く感じた。

それは、死さえも恐れない平常心があるから。

でも、寂しくもあった。

もう、大好きな人達に会えない。

顔が浮かんだ。

今頃、心配してるのだろうか。

僕は、大変なことをしたのだろうか……

でも、僕は子供じゃない。

だから、自分の人生は自分で決める資格がある。

そう思った時、周囲に少し明るい黄色が見えた。

蛍か……

そう思った。

何匹か飛び回っている。

僕は、心が穏やかになった。

こんな僕でも癒してくれる者がいる。

「ありがとう」

僕は、少しの慰めに感謝した。

好きだったなー……

恋人。

親。

兄弟。

仲間。

先生。

みんながいてくれたから、僕がいる。

僕はこんなにも、愛を持ってたんだ。

いつからか月が出てた。

黄色い三日月だった。

あの頃に帰りたい。

そう思った。

気付いたら足を止めてた。

まっ暗の中、月の光だけが僕を照らしてた。

あの頃、僕は一人で何かを追いかけてた……

僕の人生は、ここで終わったらどんなにきれいだろう。

この月の光の中で朽ち果てたら、まるで物語の主人公のような演出がなされ、命も心も癒される。

蛍達も祝ってくれる。

いいかもしれない。

僕は覚悟を決め、仰向けに寝転がった。

心は静かで、落ち着いてた。

不安など、どこかへ行ってしまったよう。

それを隠す程に僕の心は決まってた。

僕は、瞳を閉じた……

そして光を待った……

2011年3月21日公開

© 2011 GLASS

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