泥濘

昏睡状態(第17話)

第22回文フリ東京応募作品

大川縁

2,779文字

何気ない日常のある瞬間に、不意に足元を掬われているような感覚に陥ることがあるとして、それがもし精神的な「泥濘」となり人の情念を捉えるならば、詩が表現できるものは何か。このイメージを芯にして、少しでも踏み外せば日常には戻れないというい強迫観念を伴い、覚束ない言葉の群れにより表現しました。詩中で使われる「数」への執着も、確かなものに対しての憧れであり、やはりこの動揺にあるのではないかと考えました。

 

自業自得

 

 

眠るのは朝 剥き出しの爪先に触る 春の花粉

有刺鉄線に囲まれた小学校に吸い込まれる

細く小さな 未熟な手足よ

また昨夜の嵐の泥濘を 踏んで遊んで

跳ねた飛沫で 私を汚しておくれ

 

人の臆病は 容易く人を欺いて

また泥を浴びることに 執着をみせる

どこまでも死後へと続く 実感のない

危うく脆い 繊維を束ねて

果たして死後を死の後とせずにいるためなのか

最小の 限りなく意識の最小のところで

私は 泥により春に延命する

 

そこに身を置いたまま

自業自得の虚実と心を

業なき花降る 街路に阿り

 

 

 

星の秘密を話して

 

 

東村山の病室で

君をどうやって喜ばせたら

 

――と

 

誰にも認められない 未完成な僕の手遊びで

人の落とした 不要の屑を拾い集め

僅かばかり黄道から外れた コロナの軌道を

彗星の力を借りて また臍の渦まで手繰り寄せる

 

それを君の 眠りについたままの

限りなく 最小の意識の底で

揺蕩う残影の揺らぎに合わせて

ごく平凡な言葉をもって 接触するのを

どうか 遮らないでくれ

 

●○●

 

君の星座は まだ雪の下で生まれる日を待つ

それから白いシーツは満天となり

君をつくる ひとつひとつの渦を巻く

 

君が目覚めるまで

途方もない 記憶を束ね物語る

2016年4月15日公開

作品集『昏睡状態』最終話 (全17話)

昏睡状態

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© 2016 大川縁

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