語りたくなる夜に。

東峰 八重

エセー

1,096文字

初稿から丸四年。
我が創作の初心作を破滅派用にリメイクしたものの、『破滅』どころか『創生』寄り……ふっ。
こんな夜の空気に触れると創作欲に掻き立てられるのが、自分ってライターです。

日が暮れ、夕が夜に変わってから数刻のこと。何とはなしに、僕はテントを出た。

空には、少しとはいえ欠けつつも燦然さんぜんと光を落としている月があり、気温もほんのり温かい。外の空気を吸いたくて出たようなものだけれど、その時・その場所に来る為に、あるいは呼び寄せられてふらりと家を出た気さえする。――今日は、そんな夜だった。

ぺたらっ、ぱたらっ。

踵が上がり離れたサンダルが、次の瞬間また足の裏にくっついて、右左と音を鳴らす。歩くペースと歩幅を一定に保つと、地面に擦れる、ジャッ、という短く軽い音も混じりどことなくリズミカルに響いた。それに笑みをこぼしつつ空を見上げれば、柔らかな黄色。目を閉じれば、頬や髪を撫でていく気持ちのいい風に包まれる。

――ああ、本当にいい夜だ。

年寄りくさくしみじみ思いながら両腕を横に広げ、伸びと一緒に大きく空気を吸い込んだ。さながら、月の光と爽やかな風を一身に受けるように。

 

つい数ヶ月前にこの土地で起きたことを、僕はテレビを通してしか見ていない。一週間も経たない内に実際に目の当たりにし、漂う空気そのものに言葉を失ったが、それ以上も以下もなく、ただそれだけだった。

少し足を伸ばせば、絶対的な〝無〟が在る。拠点は変われどそういう地で数ヶ月過ごしてもなお、どこか別の世界で起きた出来事のようにしか感じられない。それを腹立しくすら思う僕をよそに、現地の彼女たちは笑って声をかけてくれた。

悲しむことに疲れきり、笑いでもしなければ平静を保てなかったのかもしれない。悲観していても仕方がないと、前を向いたからかもしれない。その胸中を問うのははばかられて聞けず、励ましに来たはずが逆に励まされ、上辺の笑顔で応えるしか僕にはできなかった。

だからこそその晩、心の底から思ったのかもしれない。『こんな素敵な夜に散歩に出ないなんて、すごく勿体ないことだ』と。

 

身に受けた風に髪を遊ばれたとき。広く高く青い空に圧倒されたとき。黄金色に輝く月に照らされたとき。何かが胸に詰まって、何かを叫びたくなって、誰かに伝えたくなって――人は心に筆をとるのだと思う。

その先に希望があるかどうかは誰にも分からない。けれど、悲しみや苦しみに目を向けたままじゃ、カラダを差し置いてココロが枯れ果ててしまうことを知っている。だから、言葉という名の水を紡いで自他に遣る。

そうして語るのは《物語り》。空をいだき、風を聴き、うたを詠うように、それは内なる夢幻を騙り語る。

 

——
初稿:2011/06/20
改稿:2015/06/20

2015年6月20日公開

© 2015 東峰 八重

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