竹ノ塚から

山谷感人

エセー

1,912文字

 ヒロポンと御家族へ。

 帝都の、小岩と云うトコロでヒモ生活を二年間していた僕は結句、その女性に愛想を付かされて追い出された。
 だが然し無一文。部屋を借りる敷金・礼金等が有る訳がない。
 以前、六本木のロックバーで識り合って交友していたレッチリ好きな五歳上の「ヒロポン」と名付けていた人から偶々、テレフォンが有った。彼はユーモアと云うかインチキ・センスが特化していた。例えば「どっちかって言うと或る意味、逆に俺じゃない、もう一人の俺が曰くさ〜」と自身の意見を述べる時は、必ずそうした様な台詞を吐いた。僕は、そんな彼を馬鹿らしさの天才だと思いリスペクトしていた。「いや〜、どっちかって言うと、或る意味で逆にもう一人の俺がやらかしましてね、住むトコロ無くしまいました」とエピーゴーネンして伝えると「あ、マジで」「マジ、マジ」なる全く僕はリスペクトしていないコー・マチダ的な流れになった。「だったら暫くだけしか責任は持てないが俺の部屋に来る? 竹ノ塚」「マジですか!」「マジマジ、敢えて逆にね」とした会話が成立した。結句、文藝の歴史をみても駄目人間同士ほど、公助の精神が旺盛だ。但し、海千山千なるガチなホイト人格者は別だろうが。
 だが然し、そのヒロポンの竹ノ塚の部屋は彼の実家であった。「あの……、実家とは聞いてなかったし親御さんや妹さん居るし流石に居づらいです……」「いいから、いいから!」「全く良くないですよ」「ただ、二ヶ月だけ。で、共通の友人から君の悪い噂を聞き及んだから労務して家賃は入れて貰う」となった。夜中、逃げようかと僕はレッチリがガンガン五月蝿い部屋で悶々としていたが三日後に、ヒロポンに連れられて彼が労務している上野のパチンコ店に行った。ハナシは付いていたようで無理矢理、即採用。
 竹ノ塚。ヒロポンの家族とも食事などで交流し温かい台詞を頂きながらパチンコ店のお労務に通う日々。然し、僕には矢張り、堕落者で有れ! なる運命付けられた真っ赤な血液が流れていた。
 或る日。新しいアルバイトとして容姿端麗な奴が入った。僕は外国人さんや良く識らない人と共同生活をしていたりで人見知りはしないと云うか即、他人の懐に入るスキルが有る故、スグに仲良くなった。聞けば芸能事務所に所属しており、南千住に豪邸が有る、お坊っちゃんだった。それからヒロポンと三人でお労務の帰り、上野の屋台で毎日、呑むようになった。そうした中、忘れもしない十二月二十日(何故なら僕の生誕日だから)そのパチンコ店のボスが事務所に集金の帰りに暴漢から刺され金銭を奪われて他界する、なる事案が起こった。無論、テレビジョンでもニュースとして流れた。不味い事に、その日、僕は知人の紹介で仲良くなっていた宇都宮に住む女性の部屋に遊びに行っていた(何故なら僕の生誕日だったから。リプライ)ハナシを聞いて上野に飛んで帰って通夜、葬儀の後、ポリスメンからアリバイ的に可なり関与していないか? と怪しまれたのを憶えている。こちらは追悼し哀しんでいる中で、だ。
 当然ながら疑いがはれた訳だが、実際、厳格なる家庭のヒロポンの父親は「山谷君も不幸ながら疑われたし、そのパチンコ店、スグに辞めよ」となった。ヒロポンは「判りました」で退店。
 だが然し、金銭が無い僕の立場としては不味い。誰も冤罪にはならなかったが拾って貰い紹介された自身は、そのパチンコ店で「未だ転居費用非ず」の理由で「も少しは〜云々」を述べ労務するのは筋が通らない。無論、竹ノ塚の、その家庭に住んでいるし。ヒロポンの部屋でカリフォルニア大地震の時にべヴィ・ローテされたレッチリのバラード、アンダー・ザ・ブリッジを延々と流し流されたのも追憶。
 次の日。
 その頃には最早「三ノ輪の皇子」と渾名を与えていた南千住の、その、お坊っちゃんから奴から「山谷のドヤがあるじゃん。俺、三ノ輪で近いし面倒みるよ」となった。
「皇子よ。お前が犯人か?」
「な、訳ないじゃん。俺の婆ちゃん、小林旭とも識り合いだぜ」
 昭和後半の産まれ世代は良く全盛期は識らないが小林旭、石原裕次郎、勝新太郎などのワードに弱い。余談だが僕は萬屋錦之介と杉良太郎の大ファンである。
「まあ、これ以上、ヒロポンはともかく御家族には、な」
「三ノ輪や山谷で派手にやろうぜ」
「そうするしか非ずか……」
 翌日、ヒロポンの御家族に安っすい菓子折りを渡し「この御恩は忘れません」と述べ竹ノ塚を離れた。サヨウナラ、深く関わらなかったが、かの地に彷徨っていたドチンピラよ、風俗嬢よ、如何にも僕に似た駄目人間ども等々よ!
 こうして僕は自身の事実として、やがて山谷、北千住にての或る程度は狭い世に識れられ痴れた、山谷から北千住時代に至るのであった。
 

  

2023年5月23日公開

© 2023 山谷感人

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