エッセイ表紙

私が日本に帰国した本当の理由(わけ)

二十三

エセー

1,150文字

長年住んだアメリカを出て日本に帰りたいと思った本当の理由は……

「信じられへん。これが一皿六ドルなんて」

 私は溜め息をつきながら、パサパサの酢飯の上にくたびれた乾燥海老が乗った寿司皿を、引き抜いた。同僚も苦笑いしながら、干からびてカピカピになったマグロを手に取る。

「高くてまずいけどしゃーない。それでもここが一番ましや」

 私と同僚は、週に一回ロサンゼルスの回転寿司屋を利用していた。看板は日本語で書かれているが、店員はみな寿司の握り方もわかっていない非日本人だ。訛った日本語で「らっしゃせー」と一言発したあとは英語接客。自慢げに寿司より大きいワサビを出して、味も素っ気もないインスタントの味噌汁を提供する。私や同僚のような日本人には、理解に苦しむほどいびつで不味くて、目を剥くほど高い寿司も、現地アメリカ人には最高に美味しいらしく連日の満員御礼だった。

「これが日本の寿司と思われるのが嫌やわ」

「寿司だけやない。日本食と謳ってるレストランの料理も、うちら日本人にとっては全部日本食やない。旨味がまったくないねん」

「あー。出汁や醤油の風味がする、ほんまもんの日本食が食べたい!」

 アメリカでJapanese Foodを食すたび、愚痴をこぼさずにいられなかった。

 日系スーパーに行けばコロッケが三ドル。衣も中身もふにゃふにゃの、崩れたコロッケだ。日本の実家近くにある肉屋のコロッケなんか当時一個四十円で、現在は倍の八十円に値上がりしているものの、それでもアメリカで食べる約三百円の代物に比べると味は天と地の差。あのサックサクの食感とホックホクの中身を思い出すだけでよだれが出る。

 アメリカに移住するまでは考えもしなかったが、こんなに食生活で苦労すると思っていなかった。初めはおいしいと思ったピザやハンバーガーも、毎日食べていると胃もたれして飽きてくる。あっさりとヘルシーな日本食を求めて日系レストランに行っても、アメリカ人向けのただ味が濃いだけの似非日本食しかない。海外生活が長いわたしにとって、いつしか美味しい記憶は、日本ならではの旨味に執着していた。

「日本は何を食べても美味しかった。アメリカの日本食レストランで食べる三千円の定食より、コンビニの六百円のお弁当の方が断然美味しかった。あー、日本に帰りたい」

 食事のたびに舌を鳴らし、食生活が満足いかないことに苛立ちを覚え、ストレスが溜まっていった。

「安くて美味しいものが溢れている日本がいい。アメリカには旨味がない!」

 その後、私はアメリカの食事が合わず、栄養失調で倒れて病院に運ばれるまでに至った。

 私が日本に永久帰国を決めた理由は、家庭の事情が主であるが、食生活も大きな幅を占めている。日本の旨味が、私を故郷に連れ戻す最後の決め手になったのだ。ただ、日本に帰国して一ヶ月もしないうちに体重が激増し、幸せ太りしたのは言うまでもない。

2022年6月10日公開

© 2022 二十三

読み終えたらレビューしてください

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

作者がつけたタグ

---

"私が日本に帰国した本当の理由(わけ)"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る