見栄っ張りが世界を救う

二十三

エセー

1,897文字

同じことをブスがやると殴られる時代に生きていたからこそ私は立ち上がり、前に進むことができた。

 幼少の頃、私は人気者に憧れていた。私が学生だった時代、男子はスポーツ万能だと醜男でも注目を集めたが、女子はやはり顔貌が物を言った。人気を取るためには、男子受けする可愛い女子を装うのが必定。ご贔屓の女子は、なにかと得だった。ミスをしても怒られない。むしろ庇ってもらえる。おなじことをブスがやると黒板消しが飛んできた。人気者になれば、学園生活がバラ色になるのだから、そりゃあ皆がんばった。もともと見た目が可愛い子は、すでに優勢な立場だが、容姿が普通レベルだと、金にモノを言わせて流行の服やグッズを購入し、着飾って男たちの目を惹く努力を徹底しなければならない。さらに、見た目が悪く、おしゃれの効果もない子は、多額の金を投じたグッズで勝負した。例えば、子供の小遣いでは手が届かない高価なゲームを持っていると、それだけで持てはやされる。「昨日発売のゲーム持ってるよ!」と自慢しようものなら、餌に群がる鯉のごとくクラスメイトが寄っきて、たちまち時の人になる。しかし、物品でつり上げる人気は期間が短い。絶えず新しい流行を手に入れる必要がある。金の切れ目が人気の落ち目だった。

 美も金も縁のなかった私は、クラスで日々開催される人気コンテストにエントリーすらできず、教室の隅っこで爪を噛み、「金さえあれば」と卑屈になっていた。それが高校生に上がると、ハーフタレントがテレビで脚光を浴びるや、外国人の血が混ざっている私はいきなりクラスの人気者になった。失敗しても味方は大勢、誰もが褒め称えてくれた。世の中が薔薇色に変わる気分だった。しかし、人気の持続には惜しみない努力が必要だった。人気者上位をキープするには、常に魅力的でなければならない。新しい魅力的な人物が現れるとすぐにその座は奪われる。芸能界と同じだ。嫌なことがあっても愚痴や文句はタブー。どこから見ても善人でいなければならない。人気者を人気者たらしめているサポーターたちは、自分の理想を勝手に押し付けるので、彼らの求める姿を維持しなければ、「こんな人だと思わなかった」と、すぐにそっぽを向く。彼らのご機嫌を取り続けることが、人気者でありつづける秘訣だった。当時、人気者の座をむざむざ明け渡したくなかった私は、常に美しく、周囲から羨望の的であることに力を注いだ。毎月、何冊ものファッション雑誌を買い漁り、いい服を着て、いい靴を履き、車を磨いた。彼氏も中身ではなく、見た目のいいイケメンを優先した。留学を決めたのも、少なからずその自己顕示欲があったからである。想像通り、海外在住や国際結婚、英語が話せる国際人に憧れる人たちからトレンドな女子と注目され、ブログでも上位を占め、一部の世界で脚光を浴びた。しかし、海外で長く生活するうち、見栄っ張りな価値観や考え方が変わり、小さな世界での人気なんかどうでもよくなった。私は、人目を気にせず、自分がどう生きるか、どうなりたいかにこだわるようになった。

 ありのままに生きていると言えば聞こえはいい。だが、周りの評価が気にならなくなると、誰かと競い合わなくなるわけで、おしゃれな服も、高価カバンも、アクセサリーも化粧品も要らなくなる。物欲が失われ、仕事も最低限、生活さえできればいい断捨離人間に変身した。

 見栄を張る必要がなくなった私は、向上心を失った。

 生活は、かなり質素になった。自分の周りには最低限のものしか置かない。人から褒めそやされ、噂になることで悦に入っていたあの頃とは真逆で、消費者としての私の役割は完全に失われた。

 正直、人目を気にして生きていた時の方が努力していた。たゆまぬ努力の原動力は、人から羨まれる生活を送っているところを見せびらかすためのくだらない見栄だった。もっと、人から羨ましがられたい、褒められたい、SNSで「いいね」が欲しい! という承認欲求は、私をおしゃれにし、知的にし、努力を惜しまない体にしてくれた。私の見栄を張る行為は、結果的に自らを向上させ、社会にも貢献していたと思う。なんだか複雑である。

 今の私は、誰になんと思われようと、自分のやりたいことだけをやるぐうたら人間に堕落している。社会に貢献するには、もっと見栄を張る必要がある! と妙な責任感がこみ上げたりするときもあるが、もう誰かと競い合ったり、人からよく思われるために努力するのは懲り懲りだ。私はこのまま質素に生きて、平凡な暮らしをまっとうするだろう。

 世界経済を救う、見栄っ張りでいられなかったことを申し訳なく思う。しかしながら、近年は「いいね」ハンターの若者たち=(イコール)見栄っ張りが溢れているから、彼らが世界を救ってくれるだろう。

2021年9月4日公開

© 2021 二十三

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