無題

麦倉尚

エセー

1,169文字

エッセーです。思い付きです。読んでみてください。

私は汗をかいていました。外でる汗とは違う、粘り気のあるものでした。

 洗濯を終えて家事がひと段落着きました。私はパソコンの前に座り、YouTube鑑賞を始めたところ、ちょっと酒が飲みたくなり立ち上がり、台所へ行き電気をつけました。すると足元に、いるのです。

 そう、あの茶色い虫です。

 私は独居を初めてから、出会ったことはありませんでした。なので常に、心を平坦にして自宅で時間を過ごせていました。

 ただ出てしまったのです。

 私は、声を出しました(最も自分の意志とは言えず、自然と出たので、声が出てしまいました、が正しい表現かもしれません)。私は、リビングに引き返して、先ほどの物体を思い返しました。見なかったことにしようか。私の悪魔はそうささやきました。逃げるべきではない、問題に対処すべきだと、対をなす天使は、私の視界の隅に、ジェット噴射式のフマキラーを忍び込ませました。私は天使のささやきにフマキラーを手に、また台所へ向かいました。

 姿がないのです。これで最初からなかったのと同じだよ、と悪魔が笑います。近くにいるから探してと、天使が言うのです。私は動いて探しました。養命酒の箱の近所に、彼は堂々、触角を揺らしていました。

 心臓が踊ります。私は呼吸を整えて気を落ち着かせ、フマキラーを確認しました。赤いプラスチック製のヘッドノズルからは、二つの噴射口が頭を出しています。私は彼がいた場所にその口々を向けました。そして人差し指に力を加えました。白い煙がシューという、細い音を立てて噴かれます。彼は走り逃げました。どこだと捜すとすぐに見つかり、私はまた彼に、白い煙を吹き付けました。逃げ回る彼を追い、執拗に噴射しました。

 彼はゴミ箱の横で動かなくなりました。その時に、自分が妙な汗をかいていると気が付きました。割に心拍は落ち着いおり、私は、自分が彼を倒したという成果、自らで問題を解決できたという成果に、半ば感激しました。

 近寄って彼を見ると、いまだに動く触角が恐ろしく、食器用の洗剤を持ってきてかけました。すると細かい動きも停止しました。オレンジのにおいがする洗剤は、レンジで冷凍のナゲットを温めた時に出る、あぶらをしっかり落とすために買ったものでした。

 私は今日使ったマスクを死骸に乗せ、その上からビニール袋越しにそれを掴みました。処理を終える頃には精神が高揚しており、疲れを感じていませんでした。

 パソコンの前に座りなおすも落ち着かず、YouTubeに集中できません。流し台近くへ移動して、冷蔵庫の扉を開き、冷凍のナゲットを取り出して、レンジで温めました。レンジの中でナゲットが回ります。チンという音が鳴ると回転が止まりました。扉を開けて出来具合を確認すると、まだ硬かったので、扉を閉じて、また加熱しました。効率悪いことやってんな、と私は自分を見下しました。

2021年7月24日公開

© 2021 麦倉尚

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