おっぱいがぶるんぶるんぶるん

諏訪靖彦

エセー

1,565文字

1000字ショートショート6作目です。
(今回はエセー、スイスのユースホステルに泊まったときのこと)

もう5月だから平気だろうとジージャンとジーンズといったラフな格好でユングラウヨッホの展望台まで行き、いじのわるい展望台係員に「外に出ることも出来るよ」と言われたので嬉々として外へ出たら細かい氷の粒に全身を打ち抜かれてそのまま意識を失いそうになるも、係員が笑いながら展望台の中に引きずり戻してくれて九死に一生を得た私は、凍えながら麓のユースホステルまで戻って来た。

凍えた身体を温めるには熱いシャワーに限る。私はドミトリールームのロッカーに入れたバックパックの中からタオルと着替えを取り出してシャワールームに向かった。スイスには公用語が3つある。ドイツ語、フランス語、イタリア語だ。私はそのどれも読むことは出来ない。だからロビーに書かれているフロアマップからシャワールームを見つけるのも一苦労だった。私は館内を歩き回り、部屋の入り口上部に張り出したプラスチック製の板に黒字でヒトらしき型とその上に点線が降り注いでいる模様が書かれた部屋を見つけて、扉を開けてた。

正解だった。床はタイル張りになっていて壁沿いに幾つものシャワールームヘッドが並んでいる。しかもシャワーを浴びる場所は扉で仕切られた個室になっている。これまでに泊まったユースホステルはシャワールームに仕切りがないことが殆どだったので、縮こまりながら(性器的な意味合いも含めて)シャワーを浴びることが多かった。

私は個室の前で全裸になり扉の外側に備え付けられた鉄製の籠に脱いだ服を入れてシャワールームに入った。シャワールームにはノブが二つあってノブの表面にそれぞれ何語が分からない文字が書いてあった。私は恐らくこっちだろうとあたりを付けてゆっくりと右側のノブを捻る。すると湯気と一緒に暖かい湯がシャワーヘッドから流れ出てきた。私はその湯に手をあててもう片方のノブを回しながら湯温を調整すると、頭からシャワーを浴びた。

生き返るとはこのことだ。ここまで旅をしてきて色々なことがあった。日本人だからといわれない差別もたくさん受けてきた。しかし、この暖かいシャワーがすべてを洗い流してくれる。私はたっぷり一〇分以上シャワーを浴びてから湯を止め清々しい心持でシャワールームの扉を開けた。すると思いもよらぬものが目に飛び込んできた。

おっぱいだ。

私は直ぐにシャワールームの扉を閉めた。今のはいったい何なんだ。ぶるんぶるんと巨大なおっぱいが目の前に二つあった。いや、おっぱいが二つあるのは当然だし三つあるおっぱいは見たことがない。しかし、なぜここにぶるんぶるんがあるんだ? 私は深呼吸してから今度はゆっくりと、扉をちょっとだけ開けて覗くように外を見た。

やっぱり、おっぱいだ。

張りのあるおっぱいがぶるんぶるん、その後ろには上を向いたおっぱいがぶるんぶるん、その先はブラジャーをしていて、その先はしなびたおっぱいがぼろんぼろんだ。それを確認してまた扉を閉める。

目の前にぶるんぶるんと広がった光景を二度見して、やっと気が付いた。私はとんでもない間違いを犯したのではないだろうか。いや、この部屋の入り口には確かに黒字の人らしき形がシャワーを浴びている案内板があった。あれは男性用シャワールームを指しているとしか思えない。きっと幸せな気持ちになったことによって見えた幻覚だ。私はもう一度確かめる。

うん、おっぱいだ。

膨張を続けるおっぱいに沿って広がった乳輪の後ろには、それに抗い上を向いた小さな乳輪、その先には覆い隠された乳輪、その先はしなびた乳輪……。

私はまたゆっくりと扉を閉めた。そしてシャワールームの上から手を伸ばし着替えを掴むとパンツを履いてシャワールームの扉を勢いよく開けて脱兎のごとく駆け出した。

 

(了)

 

(海外では黒が男性、赤が女性を表してるとかないので気をつけてくださいね)

2021年7月14日公開

© 2021 諏訪靖彦

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