吉田修一への追憶

山谷感人

エセー

1,416文字

逢った事はないし「悪人」も読んではいないが。

昨夜。
聞こしめして故の無聊になり、二十年振りくらいに自身の旧実家より上の山手、中高時代に通学していた界隈を散策した。僕は、その区域が嫌いである、吐くほどに。或る意味、ルビコン河を渡ったと云っても過言ではない。
田舎のナガサキで、時代小説やクールファイブの唄にも出て来て有名な丸山・思案橋育ちで幼少期を過ごした僕は帝都に例えれば港区育ちである。友人も穏やかなる人物に囲まれていた。然し、中学に入るに辺り、区域で編入されたのは二里ほども離れた山奥の異民とも共に触れ合う学舎であった。足立区民が山から襲ってきた。ポンチ画で例えればキングダム。「明日から山の民と共同生活な!」と急に宣告され、そうするしか非ずで、しかない。
先ずもって、そうした仲間ではないけれども新しいクラスメートとはハナシが成り立たなかった。
「おはよう」
「いんや~、山から下る前に朝から自慰行為して来たぜ!」
「……僕は図書館に行くよ」
最初、これがよく会話した山の民との定例挨拶であった。愚弄ではなく事実として。
彼等が何か有らば「喧嘩しようぜ!」なる腕力勝負に訴えるのにも辟易していた。僕は往時からローリング・ストーンズとか聴いていて「人を殴って骨折したらギターも弾けなくなるぜ。やらねえ」みたいなキースリチャーズが云ったか云わなかったか憶えてない記事を読んでいて、現在でも非暴力を逆説的に守っているが本当にあの時代、それこそ美学にしたヤンキー・ポンチ画の影響なのだろう、直ぐに「殴り合おう」が彼等のキーワードだった。僕は図書館に用事があるから、にて避けていたが、ここで提示するまでもなく、常にターゲットにされた幼馴染みの同級生は。
一度だけ、本気で赦せねえと僕も憤怒して、山の民のボスと対峙して「トイレットに、こいや」に着いていった。現在までも通じて唯一、人と撲り蹴飛ばし蹴飛ばされ等の経験である。まあ今でも、生活無能力者なのでガールズとの痴話喧嘩は多いが。その時、最後、山の民のボスは制服に忍ばしていたコンパスを用いて僕の眼玉を狙ってきた。そうした少年でもの必殺技があるとは此方も思わず「殺られたか……」になったが偶々、見守っていた女番長みたいなのが「そこまで! 判定アリだよ」と止めたので今も視力はサンコンさんレヴェルてあるが、その女番長も最初から止めろよと感じ、なにやら愚劣なスポーツ、ショーを演じていた気分になった。
自身のハナシが長くなった。
吉田修一は、その中学の、僕の先輩である。彼の時はもっと廃退的な学舎だったと聞く。僕の旧実家より少し上の酒屋の息子だ。作品は余り肌に合わなくて読んでいないが彼もそうした環境からのラナウェイの為に小説を学生時代、図書館に籠り読みまくったのではないか? と感じる。今もなお、彼の実家である酒屋は細々と経営している。僕が通学路に目にしていた、その彼の店舗を久々に歩き西荻窪に同時期に住んでいた等も含め作品論ではない追憶を公園のベンチからスマホより。本日は、これから同級生の命日なのでフラワーを捧げに赴く所存。

追記・ナガサキに帰郷してから、その山の民のボスや女番長をよく見掛け「よっ!」と、声を掛けるが、彼方側は全てがよそよそしく下手にでて、蚊のよふな返事をする。僕は敢えて、その時、ひつこく飲みに行こうぜ、昔話しようぜ、と誘う。人生、生活とは、そうした定めなのであろう。読んでいないが吉田修一の「悪人」のテーマも表裏一体の同一かも識れぬ。

2021年2月21日公開

© 2021 山谷感人

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