大富豪への追憶

山谷感人

エセー

1,529文字

ひとつの時代が終わったと云えよう。

僕は現在、パソコンを所持していない。
故に、このような雑文は公園などでスマホにてノリで書いている。ただ、たまに金銭になる郷土史関連の場合は「推敲とかしねえよ、馬鹿野郎」では完全に干され、ただのごくつぶし、としてワイフに密室トリックで殺害される恐れが或る為、ネットカフェに清書しに向かう。本日が、その日であった。
簡単に纏め印刷して予定は終了。閉鎖的な地域の郷土史とは実に簡単で誰でも識っている事を「~であろう」と主催者の老人に気に入られるように書くだけである。注意すべきは結論を提示しては、ならない。最早、九八歳になる郷土史の大御所に「良い視点だが、それは~」と反論を引き出す事が掲載され金銭になる。百二十三歳くらいまで先生には生きて貰いたい。単純に「お勉強不足でした」で喜んで呉れて「次の題材は~」で愛猫の餌代は稼げる。
このようなユーザー・フレンドリーを終わらせた後、僕はヤフーゲームの大富豪をしようとログインした。だが、サービスは終了しました、のページになっていた。
十六年前。
東京の北千住と云うトコロに住んでいた時、同居人は小説を書いていた。
「君も、雑学には詳しいから、何か書けば?」と、旧いパソコンを頂いた。電源ボタンが何処にあるのか? から彼に教わった。
数日後。
その後、リビングを共有していても、部屋は別々なので三日ぶりくらいに彼と顔を会わせた。彼は海洋小説の長篇を書いていて部屋に引き篭っていた。僕もトイレと深夜、ビアをコソッと買いに行く時以外は部屋に居た。
「どうだい? 海洋小説は?」
「ああ、我ながら良い出来だよ」
「早く読みたいね」
「期待して呉れ。ところで君はパソコンで何か書いた?」
「期待して呉れ」
僕は、そう告げて部屋に戻った。パソコンの電源を入れる。小説なんて一文字を書いてない。ヤフー大富豪ゲーム。三万数千人が遊んでいるコンテンツで僕はランキング六位になっていた。何故なら三日間、寝ずに対戦していたからだ。手段としてはランキング上位の人に「お願いします、お願いします。プロと対戦してみたいのです」と甘言のメッセージを送る。しょうがないなぁ、で参加を許して貰った方に勝つ。すると最初はランキング三万台でも一気に一万台になる。強い人と対戦して勝てば良い訳だから。同じランクで対戦してもランキングは上がらない。後はその繰り返し。僕はチャットでランキング上位者の人生相談の相手にもなった。主婦が多いから適当に「判ります、判ります。そろそろ対戦しませんか?」無論、上位者はガチンコで勝負してくるが、大富豪とは基本、四人勝負である。例えば僕が三本勝ち抜きで最後、大富豪を落として逆転あるな、と思ったら、その時、たまたま下位に沈んでいたランキング上位の奥さんはプロだから配布を読み、僕に勝たせようと敢えて間違ったカードを出す。暗黙のサイン。見過ごす手はない。奥さん、サンクス、三日間で僕は六位になれたよ。
やがて、その奥さんがネットゲームに参加しなくなり共通の対戦相手に「どうしたのだろう?」と訪ねたら「あれ? 識らなかった? 離婚したらしいよ」と述べられた。僕は、この場所に居たらいけないと考え依存症になっていた大富豪ゲームを止めた。
それから時は流れて頂いたパソコンを捨てて地元に帰り郷土史関連で、たまにネットカフェに行くようになり、奥さん復帰してないかなぁとヤフー大富豪ゲームをチェックしていた。奥さんのハンドルネームに出会う事はなかった。そうしてヤフー大富豪ゲームの無料サービス停止。
泥酔して奥さんに「他人の刺身のツマになるようなら他界した方が良いね」と笑いながらチャットした往時を想う。
その台詞は老人に媚びて末端の暮らしをしている僕自身に鋭く、帰って来ている。

2020年12月5日公開

© 2020 山谷感人

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"大富豪への追憶"へのコメント 2

  • 投稿者 | 2020-12-07 20:26

    内容が内容で最後の一文なんてしびれる切り口のやつなので、あんまこんな事書いていいのか、言っていいのかわからないんですけども、超かっちょいい!文体が。口調が。気だるい感じがいいです。とても。

    • 投稿者 | 2020-12-08 19:38

      スマホで雑文エセーなどをノリで書くと二行くらい書いたら「親指が腱鞘炎になりそうだよ! 手癖で早く終わらせよう」で常に文字数も少なく適当にアップするので、それが所以で気だるさ、を感じて頂いたのかも識れません。
      ただ、その根本的な生活の気だるさ、とは自身が延々と意識しているテーマでも有って諸々な意味でコメント、サンクスです。

      著者
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