悪いやつほどよくググる

メタメタな時代の曖昧な私の文学(第15話)

高橋文樹

エセー

7,010文字

「泥棒は事前に必ず下見する」という七五調の看板はあなたの町にあるだろうか? 私の住む町にはある。考えてみればおかしな話だ。事前準備は美徳であるはずなのに、泥棒という悪人がそれを厭わない。あなたは悪人が逆説的に真面目だと思うだろうか。それとも、制度的な欠陥だと思うだろうか。

私の祖父は土地持ちだった。私が生まれ育ったのはそんな祖父が所有していたアパートの一室で、まだ何者でもなかった父母は祖父母のすねをかじる形で私と姉を育てたと、いうわけだ。それからずいぶんと時が経ち、私は千葉に帰ってくることになったのだが、一年ほどそのアパートを借りた。一部屋は住まいとして、もう一部屋は私の仕事場としてである。築50年の古い鉄筋アパートで借り手がつかなかったことも一因だったが、人は世代を経てもあまり進歩しないだけとも言えよう。

しばらくして、私と妻は子育てのために私の実家へ移り、住まいとしていた3号室を引き払った。破滅派のオフィスを都内に構えてからも、仕事場だった2号室はそのまま残しておいた。とてもではないが、数千冊ある本が入りきらなかったのだ。

私は週に一度ほどアパートに郵便物を取りに行った。その際、まだ借りている2号室はもちろんのこと、かつての住まいであった3号室の郵便物も回収することが多かった。ポスティングで配られるチラシが郵便受けから溢れ返っているのは見栄えがしないし、稀に郵便物が届くこともあったからだ。

ある日、私は郵便局の不在配達票を見つけた。名前を見ると、Kと書いてある。これまでも郵便局員が間違えて荷物を届けることはあったから(一番ひどかったのはAmazonに返品したBluetoothドングルが戻ってきたときだ)、おそらく手違いだろうと郵便局に電話をかけた。電話越しに局員は謝罪をし、不在配達票を捨ててしまって良いといった。私はそのとおりにした。

それから二週間後、ふたたびアパートにK宛の不在配達票が届いていた。私はふと思い直し、郵便受けをよく見た。すると、白い名札にKと書いてある。どうやら、3号室に入居者が入ったのだ。私は人がいないままだと勘違いして、不在配達票を持って帰ってしまったというわけである。悪いことをしたと思いつつも、私は家に帰って母にそのことを伝えた。やっと店子が見つかってよかったね、と。母は店子が入ったら絶対に管理会社から連絡があるはずなのだけれど、と訝りながら、翌日尋ねてみるつもりらしかった。

翌日、夜遅く仕事から帰った私に、母は少し興奮した様子で伝えた。要点はこうだ。

  • 店子は入っていない。3号室は空室のままで、Kという入居者もいない。
  • 長い間空室だった3号室は、受け取りに住所が必要なものを不正に受け取るために利用された。
  • 不動産賃貸業界ではこうした事例が稀に起きるようで、管理会社は慣れた様子だった。

なるほど、と私は思った。

郵送で受け取ったことで存在確認を行うような重要書類があったとしよう。たとえば、クレジットカードがそうだとする。カードの申請には偽造した身分証明書と配達先を記しておく。クレジットカードが届けられたら、それはおそらく配達証明郵便などで送られるだろうから、不在配達票が入るのを待つ。首尾よく不在配達票を受け取れたら、郵便局に取りに行けば良いわけだ。仮に不正が発覚したとしても、そこに住んでいるわけではないから、足はつかない。よく考えたものである。実際にクレジットカードでそういうことができるのかはわからないが、なにかしら犯罪などに利用する価値のあるものを手に入れるため考えられた手法だろう。

悪い人たちがやってきてみんなを〇〇した

さて、あなたはこのエピソードを聞いて、どう思うだろうか。正直なところ、私は感心した。悪事を働く人間はかくも深謀遠慮が働くのかと。だが、すぐさま私は思い直した。そもそも、そういった悪事を働く人間は私のように善良な小市民とは異なるゲームをプレイしているのだ。

実は私が生業としているWebサイト制作の現場でもこうした悪事は沢山ある。その実例を幾つか紹介しよう。

XSS(クロスサイトスクリプティング)

2015年3月30日公開

作品集『メタメタな時代の曖昧な私の文学』第15話 (全22話)

メタメタな時代の曖昧な私の文学

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© 2015 高橋文樹

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